過去の経験から、政治家のやることには必ず何か裏に理由があった。純粋に国のため、国民のためというものは森嶋が関わってきた事案の中には数えるほどしかない。利権構造と政治派閥が複雑に絡み合った世界で生き残ってきた者たちだ。上にいけばいくほど、しがらみは多く強くなる。政治資金と呼ばれるものも入っている。そしてそれらは、最終的には票と政治家としての権力に結びつくものだ。

「この場に来ていただいたお2人には、ここ数年の間、私の相談に乗ってもらっていた」

 村津は2人の社長に目を移した。

「首都移転を実現させるには、政府の力だけではムリな話だ。与野党含めた政界全体、経済界、学術関係、さらにマスコミ、そして何より国民の力が結集されなくてはならない。その取りまとめがキ―になる。私は森嶋君に関係業界と政府の窓口になってもらいたいと思っている」

 初めて聞く話だった。細かいことにはとらわれずに、大局を見ることの出来る若手官僚、そう村津の言葉を伝えた葉山の声がよみがえった。

 震えにも似た戦慄が森嶋の身体を走った。歴史に残る国家のプロジェクトを身近に体験出来るという興奮にも似た感慨。そして同時に、村津は自分を実力以上に評価しているという思いが入り交じった。

「それでいいかね、森嶋君」

「ご期待に添うべく努力します」

 森嶋は無意識のうちに答えていた。

 しかしその時、森嶋の脳裏に、村津は危険な道を歩んでいるという思いがかすめた。

 民間企業のトップと、この時期にこのような場所で会うべきではない。マスコミに知られれば痛くもない腹を探られることになる。だが村津のことだから、それを承知で2人と会っているのか。