「しかし、このような大事を総理の一存で決めるには無理があります。まず必要なことは、国会で承認されることです。総理は国会通過に自信がおありなんですか」
森嶋は村津に聞いた。
「それは我々の考えることではない。総理自身に確たる信念があれば、可能なことだと思う。特にここ数週間の間にアメリカからは、かなり強硬な災害対策を求める要請がきていると聞いている」
「まず司令塔を造り直せということですな。一つのチャンスではありますな。同時に大規模な経済対策にもなります。我々建設業界では願ってもないことです。いや、あらゆる業界のカンフル剤になります」
室山は大きく頷きながら言った。
世界は、現状が続く限り、日本に将来はないと見ている。森嶋の脳裏に、数時間前に聞いたダラスの言葉が浮かんだ。
森嶋は村津に視線を向けた。
「なにかあるのかね、森嶋君」
「遷都はどのくらいの期間を考えておられますか。前の準備室では、15年から20年となっていましたが」
森嶋の言葉に村津は軽い息を吐いた。
「きみはどう思うかね」
「期間が長すぎると、その間になにが起こるか分かりません。政権が変わることも十分考えられます。特に反対する勢力が大きい場合は。短ければそれにこしたことはないと思っています」
「それだけかね。官僚の悪い癖だ。具体的な言葉を避け、曖昧な表現で逃げようとする。自戒を込めて言っているんだがね」
森嶋に村津が言った。
「10年ではどうかね。人口数10万人規模の都市を造るんです。どんなに急いでも、それくらいはかかると思いませんか」
室山が声を上げた。
「まさか、そんなに短期間ではないでしょう。まだ移転先すら決まっていないのに」
今度は玉井だ。
「すでに下準備は出来ていると考えるべきです。前の首都機能移転準備室の資料がありますから。移転先も絞られています。現在の首都移転グループではすでに作業グループが動き出し、首都として必要な機能の洗い出し、建物、交通、インフラなどの建設、整備に関する具体的な事項の決定を行なっています。それに、都市模型まで出来ています」