原子時計の重鎮たちが集った国際会議に話を戻そう。香取が初披露した光格子時計に対する反応は微妙なものだった。原子時計研究の王道からすれば“突拍子もない”とあって、「実現させるのは難しいのでは」「面白いではないか」と評価は相半ばした。

 ところが、その直後に若手研究者対象の戦略的創造研究推進事業さきがけの資金を得て、光格子時計づくりに着手するや、03年には早くも魔法波長の測定に成功。突拍子もないはずの光格子時計の基盤は、とんとん拍子で整った。

 そこからは様相が一変。米国、欧州などの研究者チームが続々と研究を始め、今、世界で30近くのグループがより高精度の光格子時計づくりとネットワークづくりを目指し、しのぎを削っている。中国も割って入り、うかうかしていられない状況だ。

ゆがみの精密測定で分かる
地下で何が起こっているか

 現在のセシウム原子時計による秒の定義が、この10年ほどで光格子時計によって再定義されるのはほぼ間違いない。この革新的な道具を使うことによって、さまざまなことが可能になる。

 香取がすでに始めているのは、アルバート・アインシュタインの一般相対性理論の検証だ。相対論は、重力は空間と時間をゆがめるとする。そのゆがみが確認できるというのである。

 重力が強い所、つまり低い地点では時間がゆっくり進むとされている。高い地点と低い地点では、その重力差から時間のずれが生まれる。それを光格子時計で測定し逆算することで、二つの地点の高低差を測ることができる。

 香取らのグループは16年、約15キロメートル離れた東京大学と理化学研究所の光格子時計を光ファイバーで結んで比較し、センチメートルレベルで標高差を計測することに成功している。