真っ暗闇の中でただ泣いてばかりだった24歳の私に
「こんな未来が待っているんだよ」と伝えてあげたい
──旦那さまは、出会う前から鈴木さんが乳がんを経験したことをご存じだったのですよね。
夫と出会ったのは、マギーズ設立に向けたクラウドファンディングのために自分の経験を語る機会を増やした後でした。FacebookなどSNSで自ら発信していましたし、がん闘病に関するインタビューも積極的に受けていました。新たに知り合う方は、ほとんどが私ががんになったことを知っている。いちいち打ち明けるタイミングを計らなくてもいい…この状態は本当に楽でしたね。
声を掛けてくれたのは彼からでした。友人主催のイノベーションの勉強会で、彼から「マギーズのプロジェクトをやっている鈴木さんですよね?」と話しかけられたのです。クラウドファンディング中に取材を受けて掲載された「another life.」というウェブ媒体のインタビュー記事を読んでくれたとのこと。
彼はパナソニックに勤めながら、「ONE JAPAN」という大企業の若手ビジネスパーソンの働き方を考える有志団体の立ち上げ準備をしていました。私もちょうど、記者業とマギーズ立ち上げ準備に追われていた時期。「彼はどうやって仕事と社外活動を両立させているのだろう?」と興味を持ち、後日原宿で一緒にランチをすることになりました。
しかし当日、テーブルについたとたん、彼に仕事の電話がかかってきて、その後目の前でパソコンを取り出し仕事をし始めたのです。「ホントにごめん!」と謝りながらも、なんと1時間も!でも、私も忙しい時期だったので「大丈夫、私もやることあるから」とその間ずっとメールの返信をしていました。
そもそも、私も基本的には「超仕事人間」。デート中でも友人と一緒の時でも、仕事の電話がかかってきたらすぐに対応したいタイプです。「会ってまだ2回目なのにこの対応って、この人は女性としての私にはまったく興味がないんだな」と苦笑しつつ、お互いすごく似た者同士だと感じ、「やりたいときに堂々と仕事をして、それを認め合える関係っていいな。恋愛感情というよりも、彼はパートナーとして合いそうな人だな」と好感を持ちました。…ここから恋愛関係に発展するまでにひと波乱あるのですが、それは本の中に詳しく書いてありますのでぜひ(笑)。
わたしが乳がんになったことがコンプレックスだと伝えたとき、彼は、「人は誰でも表には見えなくてもなにかしら事情を抱えているもの。きっと相当大変だっただろうに、その経験を他人のために活かそうと頑張っていて誇りに思うよ」と言ってそっと抱きしめてくれました。彼のご家族にお会いする前は、「私のことをどう思うだろう…」と不安でいっぱいでしたが、ありがたいことに温かく受け入れてくれました。
恋愛において辛い思いはしましたが、それを乗り越えてがんを経験した私ごと受け止めてくれる彼との出会いがあり、がんが発覚した頃は「もう一生無理だ」と思っていた結婚もすることができ、今はとても幸せで毎日が充実しています。将来に何の希望も見いだせず、真っ暗闇の中でただ泣いてばかりだった24歳の私に「こんな未来が待っているんだよ」と伝えてあげたい…そんな思いでいっぱいです。
認定NPO法人マギーズ東京共同代表理事/元日本テレビ記者・キャスター
1983年、東京都生まれ。2006年慶応義塾大学法学部卒業後、2018年まで日本テレビ在籍。報道局社会部や政治部の記者、「スッキリ」「情報ライブ ミヤネ屋」ニュースコーナーのデスク兼キャスターなどを歴任。2008年、乳がんが発覚し、8か月間休職して手術、抗がん剤治療、放射線治療など、標準治療のフルコースを経験。復職後の2009年、若年性がん患者団体「STAND UP!!」を発足。2016年、東京・豊洲にがん患者や家族が無料で訪れ相談できる「マギーズ東京」をオープンし、2019年1月までに約1万4000人の患者や家族が訪問。自身のがん経験をもとに制作したドキュメンタリー番組「Cancer gift がんって、不幸ですか?」で「2017年度日本医学ジャーナリスト協会賞映像部門優秀賞」を、「マギーズ東京」で「日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2017チーム賞」を受賞。