女性マーケテングを手がけるトレンダーズを起業し、2012年に当時女性社長として最年少で東証マザーズに上場を果たした経沢香保子さん。現在は1時間1000円〜スマホで即日の予約手配も可能なベビーシッターサービス「キッズライン」を展開し、4月には新著『すべての女は、自由である。』を出版しました。そんな経沢さんと、岸見一郎氏との対談前編は、支配と承認欲求をめぐる問題や仕事との向き合い方について語っていただきました。後編はさらに踏み込んで、子育てや恋愛、結婚、女性としての生き方などについて話題が広がり、白熱したものになりました。アドラー心理学をめぐる2人の対話をお届けします。(構成:宮崎智之、写真:石郷友仁)

子育ては
お母さんだけがやるもの?

経沢香保子(以下、経沢)前編では、「ベビーシッターが受け入れられない文化が日本にはある」という問題が話題に上がりました。でも本当は、シッターさんは、子どもの才能を見つけてくれる人なんです。『幸せになる勇気』にも書いてありましたが、ストレスが溜まっている親だと、どうしても子どものマイナスポイントばかりに目がいってしまう。シッターさんから「○○ちゃんは、こういうことに喜びを感じています」と第三者の客観的な目で報告してもらえれば子どもの能力を発見できるかもしれません。教育の一環として見ていただければいいなと思います。

岸見一郎(きしみ・いちろう)
哲学者。1956年京都生まれ、京都在住。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。世界各国でベストセラーとなり、アドラー心理学の新しい古典となった前作『嫌われる勇気』執筆後は、アドラーが生前そうであったように、世界をより善いところとするため、国内外で多くの“青年”に対して精力的に講演・カウンセリング活動を行う。訳書にアドラーの『人生の意味の心理学』『個人心理学講義』、著書に『アドラー心理学入門』など。『幸せになる勇気』では原案を担当。

岸見一郎(以下、岸見) 子どもを保育園に預けていた時、私は今より時間があったので、保育士さんが書いてくれる連絡ノートに、熱心に返答していたのです。すると保育士さんから、「お父さんではなく、お母さんに書いてもらえませんか」と言われてしまいました。

経沢 え、なぜですか?

岸見 「子育てはお母さんがするもの」という世間的な常識があるからだそうです。その保育士さんとはことあるごとにぶつかりました。あるとき「あなたは、子どもを大人扱いしているのではないですか?」と聞かれました。「扱う」という言葉がすでに嫌でしたが、私は子どもを「大人」として扱っているのでなく、「人間」として接していたつもりです。そういう対等な親子関係が、世間の常識からずれているのだということに、そのとき気がつきました。

経沢 世間の常識は、違いますもんね。

岸見 世間の常識を変えるためには、誰かが新しいモデルにならなければいけません。その意味でも経沢さんのしていることは、本当に大切なことだと思います。ですから、前編でおっしゃっていた「経営者として結果をだしたい」という気持ちではなく、「私は世界を変える仕事をしているんだ」くらいの気概で取り組んでいただきたいです。そうすれば、多少のことがあっても、自分の軸がぶれることはない。世間の評価なんていい加減なものです。いま持ち上げられていても、来年はどうなるかわかりません。

経沢 はい。本当にそうですね。