政策研究大学院大学教授 大田弘子氏政策研究大学院大学教授 大田弘子氏 Photo by Kazutoshi Sumitomo

4月から「働き方改革関連法」が施行される。月45時間、年360時間を原則とした時間外労働の上限規制の導入、年次有給休暇の確実な取得、同一企業内の正規雇用労働者と非正規雇用労働者間の待遇差の禁止などが盛り込まれ、現在、対応に追われている企業も多いことだろう。政府の規制改革推進会議の議長として、働き方改革の議論を進めてきた大田弘子さん。大田さんは、働き方改革関連法をどう評価しているのか。前編では、働き方改革法案の施行でも解決できない、日本人の働き方に関する問題を語ってもらった。

「長時間労働の是正」は大きな第一歩
高プロ人材の要件に課題も

 私は政府の規制改革推進会議の議長として、働き方改革の議論を進めてきた。4月に施行される「働き方改革関連法」によって、働き方にまつわる問題は一歩前進した。働き方や労働市場の改革は非常に難しいので、ここまでこぎ着けられたことを評価したい。

「働き方改革関連法」は、平たく言えば、(1)長時間労働の時間規制、(2)有給休暇の確実な取得、(3)同一労働同一賃金の3点が大きなポイントだ。

 なかでも、長時間労働にメスが入ったことは重要だ。「日本企業独特の働き方」ともやゆされる長時間労働の常態化は、問題が長らく指摘されていたにもかかわらず、これまで改革されずにきた。子育て中の女性が働くときの阻害要因だったのも事実だ。

これまで残業時間は、上限についてのガイドラインがあっても、結局は36協定で労使が協定を結べば、事実上青天井が許された。それが、今回の施行で罰則付きで、法規制できるようになったことには大きな意義がある。

 一方で、もちろん課題も残っている。まず、会社員の一部を労働時間規制から外す「ホワイトカラー・エグゼンプション」としての、高度プロフェッショナル制度(以下、高プロ)が、中途半端な議論に終わり、「年収1075万円以上・金融商品開発など5業務」で要件が切られてしまった点だ。海外マーケットとのやりとりが多い部署、部門、職種、IT系、研究職などがその例である。

 このように、今回は肝心の対象が年収などで一律に決められてしまった。対象職種にあてはまる人は、そもそも外資で働いている場合も多く、年俸制などで労働時間では管理されず、自律的な働き方を既にしている。今回の制度は、それを後追いで認めているにすぎない。