たとえば2011年、イギリスの小売業者テスコは、「ホームプラス」の名称で知られる韓国での自社事業を調査し、時間に追われる韓国の消費者向けにいかに食料雑貨品の売上げを伸ばせるかを見極めようとした。そして得た答えは、日中、消費者の手が空いている時間に店舗を「彼らの目の前に届ける」ことだった。
ホームプラスは試験事業として、ソウル市の地下鉄駅構内の壁一面にスーパーマーケットの棚の写真を貼り出した。オレンジ・ジュース、新鮮な野菜や肉、その他数百アイテムが並ぶ、驚くほど本物そっくりの、バックライト付きの写真である。
食料品を買いたい消費者は、単にそこにある各商品のクイック・レスポンス・コードをスマートフォンでスキャンし、スマートフォン画面に現れるボタンを押すだけで、バーチャルな買い物かごに商品を集めることができる仕組みである。その後数時間以内に、ホームプラスは実際の商品を買い物客の自宅に配達した。
テスコによると、最初の3カ月で1万人以上の消費者がこのサービスを利用し、オンライン売上高は130%増加したという。
オムニチャネルを活用する小売業者は、それぞれ異なるターゲット層を感動させるために、異なるサービス手法を考案するかもしれない。一部の顧客層は、従来通りのサービスで十分満足してくれるが、従来よりも創意工夫とイノベーションを働かせないと満足してくれない顧客層もいるからだ。
たとえばウォルト・ディズニー・カンパニーは、自社の小売店舗を見直した結果、家族のあらゆるメンバーから「もっと頻繁に来たい」「もっと長時間いたい」という気持ちを引き出すためのインタラクティブな展示を種々備えた娯楽拠点として、描き直している。
しかし、このように顧客のパスウエイにうまく合うイノベーションを見つけ出すためには、小売業者はかなりの経営資源を投入する必要があるだろう。秘訣は、それぞれの顧客層が持つ独自のパスウエイとペイン・ポイント(悩みの種)を特定し、顧客層ごとのオーダーメイドの解決策を提案することである。従来型小売業者のようなお仕着せのアプローチでは立ち行かない。