わくわくするショッピング体験
伝統的小売業者は、おそらくは自覚している以上に、アマゾンや他のオンライン企業の手にかかって苦しんでいる。店舗の売上げが徐々に流出し、単位売り場面積当たりの売上高が減少するという事態に対し、大半の小売業者はほとんど機械的な対応しかできていない。すなわち人員とコスト削減を行い、サービスの質を落とすという対応である。
しかし、それでは問題が悪化するだけである。店舗を差別化するはずのサービスが低下すれば、顧客はますます価格と利便性を重視するようになり、そのことがオンライン小売業の利点をさらに強める結果となっている。
伝統的小売業者が生き残りたいと望むなら、オンライン小売業者にはない1つの大きな特徴、すなわち「店舗」を、マイナス要因からプラス要因へと転換する必要がある。
ある程度の近未来までは、店舗は存在し続けるだろう。そして店舗は競争上効果的な武器となりうる。リアル店舗がオンライン購入を促進する効果を持つことは調査で明らかとなっている。
たとえばヨーロッパの某小売業者は、自社店舗の近隣地区では、その地区の全オンライン売上高の5%近くを獲得している一方で、それ以外の地区ではわずか3%であるという。つまり、オンラインとオフラインの体験は相互に補完し合う関係にある。
とはいえ、昔ながらの店舗だけでは不十分である。あまりにも多くの人にとって、店での買い物は、こなさなければならないただの日課にすぎない。したがって、買い物をしなくていい方法があればしなくなる。
しかし、もし店に行くことで、わくわくしたり、楽しくなったり、感性が満たされるとすればどうだろう。もし店での買い物が、映画を観に行ったり、夕食に出かけたりするのと同じくらい楽しく、オンラインではけっして味わえないような、商品にまつわる顧客経験を得られるとしたら──。
けっして不可能な話ではない。ニューイングランド州に展開する家具チェーン店のジョーダンズ・ファニチャーは、店舗内にさまざまな「通り(ストリート)」をつくり、個々のテーマを設定することにより、全米で最高水準の家具販売効率を実現している。
それぞれの通りのテーマは、たとえばマルディグラ・ショー(注1)、IMAX 3Dシアター(注2)、レーザーライト・ショー、フード・コート、ジェリー・ビーンズでつくられた街、乗り物シミュレーター、水のショー、空中ブランコ教室、特別チャリティ・イベントなどである。
【注】
1)世界的に有名なニューオーリンズのカーニバル。
2)迫力ある映像で評判の3D映画館。