アウトドア用品ショップ大手のカベラスとバス・プロ・ショップスはいずれも、その通販用ウェブサイトが利用者から最高レベルの評価を受けているだけでなく、リアル店舗のいくつかもトップ・レベルの人気を誇っている。
とはいえ、このような店舗体験を演出するにはコストがかかる。そこで、デジタル技術を利用することで、コスト効率よく顧客の店舗体験を向上させることはできないだろうか。
実際のところ、デジタル技術はすでにそれをやってのけている。デジタル技術によって、おもしろみも風情もなかった店頭ウインドーを生き生きとしたインタラクティブ・スクリーンに変身させ、天候や時間帯に応じて画面を切り替えたり、閉店時間にはお勧めの品を表示したり注文を受けつけたりする機能を持たせることも可能になった。
デジタル技術を使えば、顧客がみずから商品をデザインしたり、あるいは自分流に服装のコーディネートを考え、そうした創作物をタイムズスクエアなどの人目を引く場所に展示したりできるようになる。
また、デジタル技術を使えば集客力のあるゲームをつくることも可能である。ゲームの魅力によって顧客が店舗に留まる時間が延びたり、斬新なアイデアをともに考案してくれる顧客にお礼ができたりするようなゲームである。
さらに、デジタル技術は、たとえばタブレット端末という形を取れば、無限に近い顧客情報を店員に提供することができる。その顧客が望んでいる接客の仕方を説明したり、その顧客の住居や体型のタイプを正確にモデル表示したりすることで、顧客に最適なものを勧められるようになる。価格設定や販促情報も的確かつ瞬時に変更できるし、お勧めをカスタマイズすることもできる。
試着室のバーチャル・ミラーがネットワーク化していれば、顧客は気心の知れた友だちに相談できるので、買うか買わないかをその場ですぐに判断でき、試着するのも楽しくなる。
また、デジタル技術によって、支払い待ちの行列が解消でき、レシートを保存でき、クーポン券を保管でき、返品を早めることができる。さらに、技術のおかげで、コール・センターのオペレーターは、顧客の購買履歴やクレーム履歴をすべて参照できる。
このように延々と例を挙げた理由は、実現可能なイノベーションをすべて列挙するためではない。そうではなく、店舗や携帯端末、コール・センターなど種々のチャネルにおいて、デジタル技術がもたらすチャンスは、それがウェブサイトにもたらしたチャンスにまったく引けを取らないほど膨大で可能性に満ちていることを示すためだ。
さらに、これがカギとなる点であるが、多くのカテゴリーの小売業者は、これらのチャネルと技術をつなぎ合わせることで、店舗を絡めたオムニチャネル体験をつくり出せる。それはデジタル・リテイリング一辺倒の戦略より優れた戦略なのである。