チャネル融合への課題

 課題の1つは、これらのイノベーションを、顧客の認識と行動を変化させるに十分に早い段階で、十分に頻繁に、そして十分に幅広く適用することである。ライバルに成功をもたらしたイノベーションを、その3年後に採用しているようでは、大きな話題となって多くの顧客を集める見込みは低い。もちろん、多くのデジタル・イノベーションは失敗するだろうし、失敗の原因として他の要因がもたらした影響を定量化するのは難しいだろう。

 そこで2番目の課題として、「検証と学習」のスキルを21世紀レベルに高めることが必要となる。古い小売りの世界では、価格変更や店舗形態の改善によってもたらされた影響を測ったり、あるいは新聞広告とテレビ広告の影響力を比較したりすることは不可能に近かった(「広告予算の半分を無駄にしていることはわかっているのですが、新聞広告とテレビ広告のどちらが無駄になっているのかがわからないのです」と述べた、デパート王のジョン・ワナメーカーの有名な嘆きを思い出してほしい)。

 オムニチャネルの世界では、これらの「検証と学習」に関する課題は、子どもの遊びほど簡単である。いまや小売業は、ペイド・サーチ(検索広告)、自然検索、デジタル・チラシ、デジタル展示、eメール・キャンペーン、その他の新技術について、その効果を評価しなければならない。

 さらに位置情報に基づいたソーシャル・ネットワーク・ゲーム〈SCVNGR〉など、第三者によるイノベーションについても、同様にその効果を評価すべきである。そのうえで、リアル・チャネルとデジタル・チャネル(インターネットだけでなく携帯端末用アプリケーションも含む)の双方において、これらの影響を計測する必要がある。

 ペット用品販売のペットスマートやイギリスの薬局チェーンのブーツなどの最先端企業は、この課題に科学を応用し始めている。このような企業は医薬品の臨床試験の手法で、デジタルとリアルのイノベーションの効果を検証している。すなわち高性能のソフトウエアを使うことにより、対照群(注)を設定したり、不規則変動やその他のノイズを排除したりして、効果の検証を行っている。これらはすべて費用がかさむが、こうした手法を避けていては小売業者はこの先、立ち行かないだろう。

【注】
たとえば薬の効果を実験する際に、投薬したグループ(実験群)と投薬しないグループ(対照群)をつくることにより、その効果を正確に測る。