メイシーズの成功に学ぶ

 これを実現するには、百貨店のメイシーズのやり方が参考になるかもしれない。2009年2月、メイシーズが自社の国内部門をニューヨークに統合した際、世間の注目を引くために、デジタル・チームだけはわざとシリコンバレーの中心部に残した。300人のチームだったメイシーズ・ドットコム部門は、その日以降、新たに400人の人材追加を開始した。

 才能豊かな技術者を引きつけ、働き続けてもらうために、同部門は、人がうらやむ勤務地、華やかなファッション、そして、ほかでは見られない起業家的創意工夫とビジネス感覚の融合を売り込む、部門独自の人材募集用の独立サイトを立ち上げた。また、採用したいタイプの人材の間で人気の高いソーシャル・メディアに、部門として露出する機会を急速に増やした。

 さらに、同部門で最も成功している幹部社員たちの特長を研究し、それに基づきプロフェッショナル育成のための研修プログラムを開発した。このプログラムでは、新入社員にも昇格のチャンスが与えられるよう、コミュニケーション・スキルや時間管理術、効果的な交渉術、財務の専門知識を習得できるようにした。

 同部門は、人材発掘のためだけでなく、コラボレーションや新しい考え方の引き金としても、技術系起業家やベンチャー投資家、最先端のソフトウエアやハードウエアの開発者たちによる現地のネットワークをフル活用した。

 このような組織的戦略のおかげで、メイシーズは技術エリートたちを引きつけて彼らのやる気を引き出し、直近の2年間でeコマース部門の売上高成長率を年30%以上に増加させることができた。そして、2011年に米シンクタンクのL2が選ぶ「L2デジタルIQ指数」の専門小売店部門で、首位に立つことになった。

 このような変化を成し遂げることは、ほとんどの企業において、組織編成上かなり難しい注文である。市場シェアが急変するさなかに、動きが遅すぎれば市場での優位性と規模のメリットを失うおそれがある。かといって動きが速すぎると、「検証と学習」にかける時間が足りなくなる可能性がある。

 司法の世界で昔から伝わるしきたりが、最善の道筋を示している。それは「なるべく慎重なスピードで」という方法である。小売業者は検証と学習を素早く行わねばならない。しかし、みずからが手にしたいものを正確に把握できるまでは、大きな動きは控えるべきである。

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 これらすべてのことは、それに見合うだけの価値があるだろうか。オムニチャネル戦略に成功することの意味は、単にその小売業者の生き残りを保証するだけに留まらない(今日の環境下では、それだけでも十分、意義深いが)。

 それは、ざっと50年ごとに到来する、顧客期待と顧客体験の一種の革命をもたらすはずである。小売業はこの先、デジタルとリアルの両分野は、競合するのではなく相互補完関係にあり、それによって売上げは伸び、コストは下がることに気づくだろう。

 最終的には、顧客と従業員がそれぞれみずからのイノベーションを提案することで、より多くの新しいアイデアが実行されるのを目にすることになる。今日の環境では、情報とアイデアは自由に行き交うことができる。この両者を活用する方法を学んだ小売業者は、成功に向けて格好の位置を占めることになるだろう。

編集部/訳
(HBR 2011年12月号より、DHBR 2012年7月号より)
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