オムニチャネルを支える組織

 オムニチャネル戦略を中心に据える場合、小売企業はどのような組織をつくればいいのだろうか。歴史を振り返っても、企業の基盤事業を脅かすようなブレークスルーを生み出すこと、そして、それを組織に統合するよう組織編成することは、マネジメント上の最大の課題の1つであり続けてきた。

 破壊的イノベーションを生み出すためには、組織の他部門と切り離された独立チームが必要で、そのチームは自治権を持ち、一連の際立った才能を集め、それぞれ異なった知識基盤を持ち、大胆な賭けに出る積極性を備えていなければならない。

 一方、イノベーションに満ちたアイデアを基盤事業に統合する際に必要なのは、協働作業と歩み寄り、そして詳細な計画である。

 これは人工衛星を地球周回軌道に乗せる作業と少し似たところがある。中心部から遠すぎる所に送り出すと、衛星は宇宙をあてどなくさまようことになり、資金とチャンスを浪費する結果となる。中心部に近すぎる所へ打ち上げると、重力にとらえられ、衝突・炎上してしまう。

 このように、オムニチャネル・イノベーションを生み出し、しかもそれを組織に統合するという、両者を実現するような組織編成は、大きな課題となっている。だが、実現は可能である。

 1つのやり方は、複数の独立した正規組織から成る組織構造をつくり、カギとなる決定については全組織で調和させることである。しかし、大半の小売業者は当初から、このやり方で失敗してきた。

 アップルは、ドットコム・バブルのさなかの97年にオンライン・ショップを立ち上げた。同社は、2001年には小売店舗も展開を始めたが、自社のオンライン・チャネルとオフライン・チャネルをまったく別の組織として設置し、それぞれのチャネルが互いに衝突する可能性を考慮せずに、売上高の最大化に挑んだ。

 当初、両部門のコラボレーションは主に、品ぞろえの調整、新製品発売日、価格設定方針だけに限られていた。幸いアップルの場合は、その革新的製品と類稀なるサービスのおかげで、なかなか進まないチャネル統合のマイナス面がカバーされていた。

 しかし、時が経つにつれ、顧客は傑出したこのテクノロジー企業により多くを期待し始めるようになったため、アップルは別のチャネルからの返品を可能にした。