また、オンラインで在庫確認あるいはアイテムの予約をして店舗で購入するという新しいシステムを試すために、熱狂状態をしばしば生む自社の製品発売を活用した。そのようにして、コラボレーションの水準を高めていった。
2011年にリアル店舗網を見直した時には、デモ製品の近くに情報カードを置く代わりに〈iPad〉を置くことで、オンライン・サイトとほぼ同じように豊富な情報と製品比較を顧客に提示できるようにした。
また〈iPad〉を利用することで、オムニチャネルを利用した他のサポート情報も顧客に示せるようになり、さらなる情報が必要であれば、〈iPad〉を通じて店舗内の専門店員を呼び出すこともできるようにした。
革新的な組織をつくり上げるためには、革新的な人材を集め、雇い続ける必要がある。想像力にあふれ、ハイテクに精通し、毎日何か新しいアイデアを思いつくような人々(たいがいは若者)である。小売業界はこれまでは、こうしたイノベーターたちの多くにとって、魅力的な業界ではなかった。
しかし、いまや小売業者はアマゾンやグーグルのような企業との競争に迫られているため、人材獲得の取り組みも改善する必要があるだろう。
小売業者が必要とする優秀な人材は、みずからの組織の奥深くに埋もれているかもしれない。また、ニューヨークやサンフランシスコといった創造拠点、そして大学周辺でも、こうした人材を見つけることができるだろう。
以前、大手小売業者たちは革新的な人材を雇い、アーカンソーやミネソタ、オハイオなどにある本部での業務に誘い込もうとしたが、うまくいかなかった。また、自主性に満ちて現状破壊を生み出すようなチームをつくり、これらを小売業の本業に結びつけようと試みたが、ほとんど成功しなかった。しかし、オムニチャネル戦略を加速させているまさにその技術こそ、この2つの問題を解決するうえでも役に立つ。
デスクトップ上でのテレビ会議システム、モバイル用アプリケーション、ソーシャル・ネットワーク、コラボレーション型グループウエア、共有の知識基盤、インスタント・メッセージ、そしてクラウドソーシング(不特定多数に問題解決を委託するウェブ・サービス)といった技術は、エイミーの買い物に役立つだけではない。
こうした技術によってシェルダンやラジェッシュのような革新的な若者(注)たちは、それぞれが住む場所といっさい関係なく一緒に仕事をすることができるようになり、また自分たちのアイデアを雇い主がすでに持つ能力と統合させることも可能になるのである。
【注】
米CBSテレビの人気番組『ビッグ・バン・セオリー』に登場する架空のキャラクターで、カリフォルニア工科大学の宇宙物理学者と理論物理学者という人物設定。