コストなど制約の大きい通勤電車にも
デザイナーズの流れが

 鉄道車両は路線の顔であり、事業者の象徴だ。人口減少、地方過疎の時代において、これからも利用者に選ばれ続けるために、各社ともブランドの構築、向上に躍起になっている。JR九州は民営化直後から水戸岡氏と二人三脚で、個性的な車両によるオンリーワンの体験をつくり上げることで、一般利用者に向けたブランドを構築していった。小田急もロマンスカーブランドの復権を岡部氏に託し、成功を収めた。この流れはいよいよ、特急車両から通勤車両に波及しつつある。

 製造車両数が少ない特急車両であればともかく、100両以上製造しなければならない通勤車両はコストの制約が厳しいため、機能性、量産性が優先され、デザインは二の次となりがちだ。また、鉄道車両は20~30年、長いものでは半世紀以上にわたって使われるものだけに、性能やデザインの陳腐化は避けようがない。搭載する機器類はライフサイクル中に更新することも可能だが、外装は塗装を除いて変えようがないからだ。

 さらに、非日常の特急車両ならまだしも、日常的に乗車する通勤電車のデザインで失敗してしまうと何十年とイメージを引きずりかねないという危惧もある。かくして、通勤車両のデザインはどうしても手堅くなりがちだった。

 それでも通勤車両に著名な工業デザイナーが関わっていなかったわけではない。例えば、キッコーマンのしょうゆ瓶を生み出した日本の工業デザイナーの第一人者である故・榮久庵憲司氏は、現在JR東日本の通勤電車の源流となった京浜東北線「209系」をデザインしている。通勤電車は一色に塗装された鉄の箱というイメージが強かった時代に、新時代の幕開けを予感させる車両として鮮烈なデビューを飾った。

 209系のファミリーが次々と投入され、「新時代」のデザインがありふれたものとなってくると、2000年代中盤以降は、さらに個性的なデザインが登場し始める。代表的なものが、ドイツ出身の工業デザイナーであるアレクサンダー・ノイマイスター氏が手掛けた、福岡市地下鉄七隈線「3000系」、東京メトロ有楽町線・副都心線「10000系」、西武鉄道「40000系」などの、丸みを帯びた先頭部を採用した車両である。