「売春島」の花火の先に遊女は何を見ているのか
そんな中で、島は「表」の顔をつくろうと躍起だ。2003年の夏にオープンした「パールビーチ」はその象徴だ。
この地で養殖が盛んな真珠をコンセプトに整備された海水浴場は、若いカップルや家族連れが気軽に島を訪れることができるように、洒落たデザインのベンチ・シャワー室などが建てられている。
数年前には、このビーチや島の広場でレゲエイベントが開かれた。地場の観光産業を盛り上げようとする地元企業が主催し、島外から多数の若者を呼び寄せて夜通しのライブが行なわれた。
子どもの夏休み期間中は、旅館の宿泊者を対象にした無料の花火遊覧船もある。94年に開業した島の対岸にあるレジャー施設では、毎晩打ち上げ花火が開催される。その花火を海上から最もよく見えるポイントまで、船は毎晩出航する。
海面に満開に咲く花火は、人でごった返した都会の花火大会では決して見ることのできないものだと言える。
「いまさら『表』の顔だけじゃあ到底やっていけない」
「裏」の顔に頼らなくてもすむような「表」の顔を確立したいという切実なもがき。「あってはならぬもの」を抱える島には、独自で温泉採掘に成功した宿もある。海を眺めながら入浴できる天然温泉の露天風呂は、他の有名観光地に勝るとも劣らない。
すぐ近くでとれる伊勢海老・あわび・牡蠣など豊富な海産物を使った料理も絶品。純粋に観光に訪れた旅行者でも楽しめるよう、船上バーベキューや釣りといった宿泊オプションも用意されていてインターネット上でも積極的に宣伝されている。
今まさに、島は観光地らしい観光地として生まれ変わろうとしているのだ。しかし、「今さら『表』の顔だけじゃあ到底やっていけない」(前出の客引き)。
そもそも、「売春」という高単価・高収益の産業を基盤に成り立ってきた島だ。いくら観光地としての魅力を高めようと、安価に新鮮な魚介類を仕入れ、余計なサービスを省いてコストを削ったとしても、宿としての売上だけで島の経済を維持することは難しい。
昼間は「表」の顔を見せていた島も、日が落ちてからは、何人もの客引きが島の「メインストリート」に立ち、「それ目的」で散策する男たちを日付が変わる頃まで待ち構える。島は「裏」の顔を捨てられやしない。
島で育った若い人は、仕事を求めて都会に出て行ったきり帰ってこない。客引きの老女はみな、還暦を超えている。この客引きたちがいなくなった時に「伝統産業」はどうなってしまうのだろうか――。