オウム真理教によるサリン事件、池田小学校の児童や秋葉原の歩行者天国を襲撃した事件など、平成も大量殺人事件が数多く発生した。昭和の時代は大久保清や小平義雄の両元死刑囚による連続強姦殺人事件、映画やテレビドラマにもなった小説「八つ墓村」のモチーフとされる津山(30人殺し)事件などのような近隣住民を多数殺傷した事件、連合赤軍リンチ殺人や三菱重工ビル爆破など過激派による事件――などという傾向があった。しかし平成の大量殺人は、捜査段階で供述した動機が明らかにされても「本当にそんなことが理由なのか?」と首をかしげざるを得ない事件が多かった。(事件ジャーナリスト 戸田一法)
世界を震撼させたテロ事件
「平成最大の事件」と言えば、何といってもオウム真理教(当時)による一連の事件、特に化学兵器として使われる猛毒の神経ガス「サリン」を凶器とした2つの事件だろう。
1件目は1994(平成6)年6月27日深夜、長野県松本市の住宅街で発生。28日未明までに7人が犠牲(2008年8月、さらに1人死亡)となったほか、約600人が被害に遭ったとされる。ターゲットは教団が関わった民事訴訟を巡っての、長野地裁松本支部の裁判官官舎だった。
この事件では、第一通報者で被害者でもある河野義行さんが重要参考人として疑われ、長野県警は28日に家宅捜索で薬品類などを押収。その後も連日にわたって聴取を続けた。またメディアも河野さんを犯人視するような報道を繰り返した。
7月には、散布されたガスがサリンと判明する。しかし、長野県警は河野さん犯行説に固執したため、押収した薬品でサリン生成が不可能にもかかわらず「家族が隠匿した」という見立てで捜査を継続した。これが結果的に、方針転換の遅れにつながった。
メディアも専門家が「農薬でサリン生成は不可能」と指摘していたにもかかわらず、警察による「(河野さんが)救急隊員に『除草剤を作ろうとして調合に失敗した』と話した」などのリークを元に報道を続けた。
そして、この捜査ミスと、真相究明と検証なきメディアの報道により、次の事件が起きる。地下鉄サリン事件だ。