「何なのよ、あれは。完全にフライングじゃない。村津さんがひいきにするわけね」
森嶋が席に戻るなり優美子が囁いた。
「ハーバードであんなことやってたなんて聞いてないわよ」
「僕にも突然だったんだ。昨夜急に言われて、ほとんど徹夜でまとめた」
「村津さんに会ったのはそれだけのため」
「偶然だ。ロバートと会った後に電話があった」
「そういうのは偶然とは言わないのよ」
村津と大臣たちが出ていくと同時に、森嶋の周りに部屋中の者が集まってきた。
「ハーバードじゃ、首都移転について調べてたのか。この話は君が留学する前からあったことなのか。本当のところを教えろよ」
「僕はたまたま政治経済学の研究レポートに書いただけだ。それが村津さんの目に止まったらしい」
「そんなウソが通用すると思ってるのか。タイミングがよすぎる」
「信じなければそれでもいいさ。どうってことない論文だ」
「まあそうだ。夢想家の夢物語だ」
「いや、新しい都市論として注目されるべきものだ。だから村津さんも君に発表させて、大臣まで連れてきた」
たしかにその通りだ。森嶋はここ数日の動きを思い返した。
村津は森嶋の考える首都をイメージしているのかも知れない。小規模で機動性に溢れた近代的な首都だ。それでいて、国家の中心となりうる都市。