「朝っぱらから驚いたね。3人も大臣が来るのなら、事前に言うべきだよ。会議室の前にSPが3人もいたら職員は避けて通るよ」
「話の中に、もっと政府批判を入れても良かったんじゃない。あなた、かなり遠慮してたでしょ」
森嶋の言葉に優美子が言った。
「そりゃそうだろ。会社でいえば社長たちの前だ。その前であんたらの会社は危ない、なんて言えない」
「村津さんが呼んだのかしら。あの人、最近政府のお偉方と頻繁に会ってるらしいから。やはりこういう話は根回しが必要なのかしらね」
優美子の言葉にはとげがある。それは森嶋に対しても言っていることなのだ。
「とにかくこれで、政府は首都移転に真剣だということが分かった。もう、後戻りは出来ないだろ」
「分からないわよ。非公式な勉強会に大臣がふらりとやってきたぐらいじゃ」
たしかにその通りだ。彼らに仁義なんてない。
優美子の携帯電話が鳴り始めた。
「日本国債が大量に買われてる。銀行、証券会社、個人からも流れてるのね」
優美子が言ってから、森嶋に目配せした。
「額は分からないの。少なくとも1兆円以上なのね。それって、本当なの。どこが買ってるの。まだ分からないの」
「ユニバーサル・ファンドだ」
森嶋が言った。
「ユニバーサル・ファンドを調べてみて。何か分かったら至急、私に連絡して」
「空売りとCDSについても調べるように言ってくれ」
優美子は森嶋の言葉を伝えると、携帯電話を閉じた。
「財務省の後輩からよ。何かあったら、知らせるように頼んでおいたの。財務省と金融庁は大混乱らしいわ。今日、半日で1兆円以上の国債の名義が移動したんだって。意図的なものに間違いないわね。財務大臣が中座したのも頷けるわね」
「ロバートの言葉通りだ。彼らが戦争を仕掛けてきた」
その時、森嶋の携帯電話も鳴り始めた。
(つづく)
※本連載の内容は、すべてフィクションです。
※本連載は、毎週(月)(水)(金)に掲載いたします。