「実は、首都移転なんてまだ信じていなかったんだ。しかし今日、あの3大臣が来たことで多少は信じる気になった。まだ、全面的にではないがね」

 千葉は冷静を装ってはいるが、興奮を隠せない口調で言った。

「俺はとっくに信じてたよ。今の日本の停滞を打ち破るには、そのくらいしか思いつかない。しかし、実際に動き始めるには山ほどの法案を作って、国会を通さなきゃならない。政治日程というものがあるだろ。それは、どうなってるんだ」

「そうだ。まだ法案提出さえされていないんだ。法案が政府内でまとまるのに、各省庁の関連法規の改正も考えると300日。それが国会に提出され、審議される。衆参両院を通過するのに100日。ことがことだけに、議論沸騰というところだろう。すんなり賛成多数というわけにもいかない。すべて合わせて、少なくとも、1年はかかる。それまでには、色んな情勢も変わっている。やはり、夢物語のような気がするね」

「しかし、俺はそんなにかからない気がする。たとえば2011年のコンピュータ監視法案は法務委員会の審議が3日間で、さらにその3日目の午後には衆院本会議で可決された。何か、大胆なことをやらなきゃ、日本はダメになるってことは、与野党共通した意見だ。総理のやる気次第だが、けっこう短期間で法案は通ると思う」

 様々な声が飛び交い始めた。どの声も、多少の昂ぶりを含んでいる。

「その後は――俺たちの出番じゃないのか。こんなことやってるのは、俺たちだけだし。前の準備室の連中は解散してちりじりだ。今度も呼び戻されてはいない」

「実際に動き出すとしたらまず国交省が新首都のグランドデザインを作って、それを国民に発表するってことになるか。それとも、それまでに国会の承認がいるとか、なにか手順が必要なのか」

「知らないよ、そんなこと。俺たちは言われたことをやってればいいんだ」

「誰もまだ知らないんだ。首都移転なんて、明治維新以来誰も真剣に考えたことなんてないんだから。だから、俺たちが考えていかなければならないことだ」

 一瞬、声が途切れた。熱気にも似たものが漂っているだけだ。

「だったら、責任重大だ。油を売ってるわけにはいかないな」

 その声を合図に、若手官僚たちはそれぞれの席に戻っていった。

 森嶋と優美子は遅い昼食に外に出た。