ロシアとの儲け話を企んだ大統領

 また、下院情報委員会ではロシアとのつながりについて、トランプ氏が大統領選に立候補する前に遡り、大統領の財務問題や国家安全保障上のリスクなども含めて調査している。

 アダム・シフ委員長は調査の狙いをこう説明した。

「トランプ氏が有力な大統領候補だった時から、共和党は彼とロシアのつながりはないと言ってきました。でも、実は秘かにロシア政府の助けを求め、人生最大の儲け話をまとめようとしていたのです。プーチン大統領に働きかけ、ロシアの制裁解除をちらつかせた。それに犯罪性があろうがなかろうが、これは国家安全保障上由々しい問題です。捜査が必要ですし、資金浄化疑惑の対象にもなります」(ABC『ジス・ウィーク』、2019年2月24日)。

 シフ委員長が指摘した儲け話とは、トランプ氏が大統領選に立候補した当時、モスクワにトランプタワーを建設する計画を進めていたことなどである。そして、シフ氏は大統領のロシアとのつながりについてはたとえ犯罪性が立証されなかったとしても、国家安全保障上の重大な問題ではないかと主張しているのだ。

 一方、トランプ大統領は、バー司法長官が「トランプ陣営とロシアとの共謀は確認できなかった」とする特別検察官の報告書の概要を発表した直後、こう述べた。

「これで完全な潔白が証明されました。大統領がこのような捜査を受けなければならなかったのは国家の恥です。私が当選する前から捜査が始まりましたが、これは違法な捜査でした。今後、ぜひ相手側の捜査もしてもらいたいものです。私は不当に標的にされましたが、その試みは失敗に終わりました」

 それから、再選をめざして政治資金集めを始めたトランプ大統領は支持者の集会で、「3年にわたる嘘と名誉棄損、中傷は終わりました。ロシアをめぐるでっち上げは幕となったのです。まやかしの共謀説は存在しません…」と声高に叫んだ。

 これに対し、シフ委員長は「今後もロシアとのつながりについて調査を続けていく」と宣言したため、大統領は激怒し、シフ委員長の辞任を求めた。この大統領の要求に下院情報委員会の共和党のメンバー9人が同調し、理由をこう述べた。

「このような委員会の委員長が国民に嘘をつき、謝罪もせず、マッカーシー主義の反共運動よろしく、委員会のメンバーを批判する。これでは信頼すべき委員会活動はできません」

 このように委員会の中でもトランプ大統領の疑惑追及をめぐり、民主党と共和党のメンバーが激しく対立している。トランプ大統領が就任して最初の2年間は与党・共和党が上下両院の多数を握り、常任委員会の委員長ポストを全て独占していたので、大統領の疑惑追及はほとんど行われなかった。ところが、2018年11月の中間選挙で民主党が下院の多数派を奪還したことで、各委員会の委員長に民主党議員が就き、調査権を使って大統領の疑惑を徹底的に追及し始めた。これに対してトランプ大統領や共和党議員の多くは強い不満を感じているため、民主党のシフ委員長の辞任を求める行動に出たのであろう。

 シフ委員長については、民主党のリーダーであるペロシ下院議長が「シフ氏は愛国心の強い指導者です」と弁護しているので、辞任に追い込まれることはないだろう。