死に物狂いで再選をめざす理由

 SDNYは他に大統領の納税記録(脱税容疑)や財務問題も捜査しているが、これらの件でもコーエン被告から重要な情報を得ているようだ。

 コーエン被告は2月29日、下院監視・政府改革委員会で証言し、トランプ大統領が銀行から融資を受けるために自身の資産を水増しした財務諸表をドイツ銀行に提出したこと(銀行詐欺にあたる可能性がある)、一方で連邦税と固定資産税を本来よりも安く抑えるために資産を過小評価したことなどについて具体的に述べた。

 SDNYは金融資産の捜査を得意としており、金融詐欺や脱税容疑でもトランプ大統領を起訴する可能性はある。

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 一方、トランプ大統領は退任後の訴追を避けるためにも死に物狂いで2020年の再選をめざすだろう。連邦刑事罰の多くは5年で時効となるため、大統領は訴追を免れる可能性が高くなるからだ。逆に民主党はそうさせないためにトランプ大統領の再選はなんとしても阻止しなければならない、と考えているだろう。

 トランプ大統領はモラー報告書の概要が発表された後、勝利宣言してこう続けた。

「民主党は今後もこのバカげた党派的な捜査で国民を欺き続けるのか。あるいは国民に謝罪して、崩れかけた社会の基盤を共に立て直していくのかを決めなくてはならない」と。

 しかし、メディアを「国民の敵」と呼び、司法省やFBI、裁判官を再三攻撃し、報道の自由や法の支配、民主主義を脅かしてきたのはトランプ大統領の方ではないのか。はたして大統領がそのことを認識し、国民やメディア、司法機関に謝罪する日はくるのだろうか。

(ジャーナリスト 矢部 武)