三菱の試算では、安全対策の費用がかさみ、建設費は当初予定の倍以上にふくらむ見通しだ。採算をとるためには、現地の電力料金を大幅に引き上げてもらう必要があるが、トルコ側がこれを簡単にのむとは思えない。

 日本側は今年1月に世耕弘成経済産業相をトルコに派遣し、代替案として火力発電所の新設をもちかける方向で調整していた。

 だが、世耕経産相の派遣は先送りされたまま。トルコのエルドアン大統領が原発建設にこだわりをみせていて、説得できない状況だからだ。

 日立や三菱重工にとっては、原発建設計画からスムーズに撤退し、あわせて日本政府には、日本で原発の新設ができる環境づくりに注力してもらうというのが、現実的なそろばん勘定だ。

 日本政府は原発輸出をあきらめ、きちんと日本国内の問題に目を向けるべきではないのか。それなのに、政府は原発メーカーの苦悩から目を背け、「国民的議論」の呼びかけにも静観を決めこんでいる――。

 中西氏の焦りやいら立ちには、そんな政府批判も含まれているように見える。

「安倍一強」のアキレス腱
原発が争点になるのを回避

 日立幹部は「今年が選挙イヤーだというのも影響しているのだろう」とみる。

 春の統一地方選に続いて、夏には参院選がある。この期間に原発に注目が集まれば、脱原発を掲げる野党に票が流れかねないからだ。

「原発ゼロ」に向けて積極的に発言している小泉純一郎元首相が、息子で自民党若手ホープの衆院議員でもある進次郎氏と組み、そこに党内の不満分子が結集することも考えられる。

 原発は、安倍一強体制の「アキレス腱」ゆえに、へたには動けないという思惑がかいま見える。

 原発輸出はもはや、メーカーからすれば、「疫病神」でしかない。暴れだす前に関係を断ち切りたいのが本音だ。

 これまで政府と呼吸をあわせて推進を掲げながら、もうからないとなればやめるというのもいささか手前勝手な理屈だが、一方の政府も「失敗」を認めず、現状からの打開策をさぐろうともしない。

 原発輸出の皮算用がはずれたなかで、官民一体の「原子力ムラ」に亀裂が広がっている。

(朝日新聞経済部記者 内藤尚志)