高学歴ワーキングプア女性を自死から救えなかった社会保障制度の限界4月上旬、1人の女性研究者の自死が報道された。将来を期待されていたものの、安定した収入とポジションを得ることができず、命を絶ったという(写真はイメージです) Photo:PIXTA

九大オーバードクターとは対照的
将来を期待された女性研究者の自死

 2019年4月10日、『朝日新聞DIGITAL』で、1人の女性研究者の自死が報道された。ネット空間には、またたく間に大きな関心が湧き上がった。

 2016年に43歳で亡くなった西村玲(りょう)さんの専攻は、日本思想史および日本宗教史、特に江戸時代の日本仏教だった。博士の学位を取得した後は、日本学術振興会の特に優れた若手研究者を対象とした研究員に選ばれたり、注目される学術賞を受賞したりするなどの業績を重ね、将来を嘱望されていた。

 しかし2008年以後は、安定した収入とポジションを得ることができず、結婚したが破綻し、自死に至ったという。この報道から、2018年9月に九大箱崎キャンパスで放火自死した46歳のオーバードクター・Kさんを思い出した方は、少なくなかっただろう。

 西村さんとKさんは、数多くの意味で対照的だ。西村さんは女性であり、安定した経済力を持つ家族に支えられ、スムーズに博士号を取得し、研究に専念して輝かしい業績を挙げた時期があった。

 一方で、Kさんは男性だ。家庭の経済状況の悪化に伴い、中学卒業後は働きながら学び続けてきたが、自らの生活を支えながら学ぶことや研究することには無理があり、学位を取得せず、はかばかしい研究業績を残すことなく大学院を退学した。

 西村さんとKさんは、ほぼ同年代だが対照的だ。しかし同じように、自らの生涯を自ら終わらせるという決断に追い込まれた。私は、このことに強い衝撃を受けた。

 生育歴の中での「貧」や「困」は、本人の生涯にわたって暗い影を落としがちではある。しかし、西村さんとKさんの生涯は、生育環境とも家庭とも若年期のキャリア形成とも無関係に人生を容易に「詰ませる」存在があることと、有効な救いの手段が存在しないことを示しているではないか。