生活保護には「世帯単位」という原則があり、貧困ではない世帯の中の個人の貧困を救済することはできない。一方、「貧困」だけではなく「貧」を伴わない「困」も対象としている生活困窮者自立支援制度では、どうだろうか。

「少なくとも、生活困窮者自立支援事業での支援は利用できました。結婚を選ぶ前に、ご両親から独立して、たとえば『生活保護を利用しながら1人暮らし』という支援を受ける可能性があったかもしれません」(仲野さん)

寄り添うことしかできない
社会保障制度の限界

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 研究者は一般的に、情報収集能力や処理能力が高い。優秀な研究者であった西村さんは、自分の使える可能性のある制度を知っていたかもしれない。同時に研究者は、「自分の課題は自分で解決しなくては」という価値観を強く内面化しがちでもある。逆境の連続で、すでに「心が折れ」ていたのかもしれない。

「それに、自立相談支援制度での相談支援事業は、低学歴で就労経験が少なく就労意欲も低い方々を基本的な対象としている感じがあります。西村さんが窓口を訪れたとすると、『高学歴なのだから、選ばなければ仕事はあるでしょう?』『ハローワークに繋ぎます』という対応を受けたかもしれません」(仲野さん)

 それは、「研究者として生きるな」という宣告だ。到底、受け入れられないものだっただろう。

「もしも担当者が西村さんの意向を尊重し、大学や研究機関への就職活動に寄り添ったとしても、研究者の雇用環境自体に問題がありすぎます。結局、『就労支援』という枠組みでは、問題の解決には繋がらなかったのではないかと思います。寄り添うことはできたかもしれませんが……“寄り添う”こと“しか”できない制度の限界を突きつけられたと感じています」(仲野さん)

 日本のセーフティネットの網の目は、想定していない数多くの人々を取りこぼし続けている。国として推進しているはずの「誰一人取り残さない」という目標(国連SDGs)を持ち出すまでもなく、このままで良いわけはないだろう。

(フリーランス・ライター みわよしこ)