第3章
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通話ボタンを押したとたん、理沙の声が飛び込んできた。
〈森嶋君、ユニバーサル・ファンドの動向が分かったわ。やはり日本国債の大量買いをやってるのよ。2兆円の買い付け〉
「確かなんですか。1桁多い」
〈間違いない。私も3度、聞き直した〉
「そんな金をどこから集めたんですか」
〈驚くのは早いわよ。彼らの所有してる日本国債は現時点で32兆円。これで外国人所有の日本国債が101兆円になった。これは国債発行残高の11パーセントに当たる。初めて外国人所有の日本国債の割合が2桁に乗ったのよ〉
しかも、と理沙は続けた。
〈インターナショナル・リンクが日本と日本国債のランクを一気に3ランクも下げたあとよ。これって何を意味してるか分かる〉
理沙は興奮を含んだ声で一気に言った。
頬にやわらかい感触を覚えた。優美子が耳を携帯電話に近づけてきたのだ。
〈彼ら、何らかの操作をするつもりなのよ〉
「何らかの操作って、何なんです」
〈知らないわよ。お友達のハンサム君に聞いてみて。CDS買いも同時にやってる。正確な額は分からない。でも、たがが外れたように、という表現だった。ついに、ユニバーサル・ファンドが戦争をしかけてきたのよ。世界中が、日本に注目してる〉
森嶋は理沙の言葉を十分理解できなかったが、ユニバーサル・ファンドが本気であることは分かった。日本国債暴落の糸口をつかんだのかもしれない。
「しかしそんな大金、一つのファンドがどうして動かせたんです」
〈問題はそこね。これにはすごい裏があるのかも知れない。私たちが想像もつかないような〉
「なにか分かったら報告してください。僕も、理沙さんに報告しますから」
〈それって私のセリフでしょ。初めてじゃないの。あなたのほうから言い出すなんて。でも了解よ。協力しましょ。日本のためにね〉
携帯電話は切れた。
優美子が身体を離した。