「中国がユニバーサル・ファンドに資金提供をしていると言うの」

「きみもそう考えたんだろ。GDP12兆ドル、外貨準備高3兆3千億ドル。アメリカ国債はすでに1兆2千億ドル保有している。十分可能な額だ」

「友達のロバート君に聞いてみたら。彼はプライベートジェットで、中国に飛んでったんでしょ」

 優美子も理沙と同じことを言った。

「アメリカはすでに、中国の関与をつかんでいるというのか」

「だから、彼らは慌ててるんじゃないの。ロバート君が日本と中国を飛び回り、国務長官が総理大臣と会って、日本になんとかさせようとしている。自国では手に余ることだから」

 今度は森嶋が考え込む番だった。

 いくらユニバーサル・ファンドが巨大とはいえ一民間企業にすぎない。そのユニバーサル・ファンドが、国家を破綻させることなど出来ない。たしかに今まで、そう考えていた。しかし、中国マネーが背後に控えているとなると話は別だ。

「どうしたの。顔色が悪いわよ」

「たとえ中国が絡んでいるとはいえ、ユニバーサルファンドは、たかが一民間企業だ。日本はタイやギリシャとは国家規模が違う。いくら策を弄して国家破綻を狙おうと、火傷をするのはファンドのほうだろ」

「国家を破綻させる方法は一つじゃないわよ。機に乗じれば、いくつだってある」

 優美子はそう言って、森嶋を見つめた。厳しいことを言いながらも、どこか優しさを感じる顔だが、今はその片鱗もない。たしかに、元財務官僚の顔だ。

「一つは、日本国債の外国人比率上昇ね。今までは、10パーセント以下だったのよ。これが10パーセント、20パーセントと拡大していけば、状況は変わってくる。イタリアは約半分、ギリシャは7割から8割を外国勢が保有してたの。単なる資産運用の手段としてね。だから、危ないと思えば即刻売り抜けようとしていた」

 分かってるのという顔で森嶋を見つめた。

 森嶋が頷くと再び話し始めた。