「腰痛治療のため、医者の言うとおりに薬を飲んだり、運動したりしているのに少しも良くならない。むしろ悪化した」という患者は少なくない。どうしてそんなことが起こるのか。「慢性痛」の名医として知られる横浜市立大学付属市民総合医療センター・ペインクリニックの北原雅樹教授が解説する。(医療ジャーナリスト 木原洋美)
治療のために飲んでいる薬や
運動が「逆効果」
「病院に通っているのに全然よくならない。むしろ悪化してしまった」――痛み治療の第一人者、北原雅樹教授のもとには、そんな腰痛患者も多数訪れる。原因は当然さまざまだが、意外と多いのが、治療のために飲んでいる薬や運動が逆効果になっている例だという。前回の記事に引き続き、今回も、2つの症例をご紹介する。
【症例1】
60代後半の女性。「原因不明」の腰下肢痛で受診。
最初に行った整形外科で原因不明と言われ、心療内科を紹介されたが、やはり原因は分からず。次に訪れた整形外科では「頚椎症、腰痛症」に効果があるとされているデパスという抗不安薬・睡眠導入剤を処方された。
デパスを飲むと痛みが楽になったことから、増量。1年以上にわたり、1日6錠ずつ服用した。
しかし結局、痛みは治らなかった。北原教授は言う。
「本人に、『デパスを服用してみてどうでした』と尋ねると、『物覚えが少し悪くなった気がする』と言いました。でもご主人に確かめると、少しどころではありませんでした。
物忘れがひどくなり、日中もボーっとしている感じで表情も硬くなってしまったそうです。認知症の症状ですよね。
デパス、エチゾラムなどのベンゾジアゼピン系の薬は、筋弛緩作用があるので高齢者が服用するとふらついて転倒するリスクがあります。また、せん妄や認知症の発症率が高まることも分かっており、日本老年医学会が作った『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』では、特に慎重な投与を要する薬物だから『高齢者には可能な限り使用を控えるべし』とされています」