おそらく、このお客さんは親方の質問を予期しており、最初から答えを用意していたのでしょう。語尾が伸びることも、親方の顔をうかがうこともなく、淡々と答える様子がそれを物語っていました。

 例に挙げた二つのやりとりは、まったく異なる展開を見せますが、一つだけ同じところがあります。親方の第一声がつねに「お飲み物はどうしましょうか」であることです。

 私が持つ大量のデータを確認したかぎり、どの鮨屋の親方であっても、客に対して最初に投げかけるのは、このひと言なのです。

 いったいなぜなのか?

 親方はこのひと言で、客をテストしています。説明などいっさいせず、なんでもないような顔をして、とても難しい質問をしています。

 その答えを聞くことで、親方は客を見極めているのです。

「何かお切りしますか?」に
「はい」と答えてはいけない

 さて、飲み物を注文すると、新たな質問が飛んできます。

「何かお切りしますか?」

 気を利かせてくれたようにも思えるこの言葉ですが、実は新たなテストが開始した瞬間です。いったいどう答えるのが正解なのか、わかりますか?

 調査したのは伝統的な鮨屋ですから、温かい料理は基本的にありません。ただ、お客さんはアルコールを注文したので、おつまみが欲しいはず。お店にあるのは鮨のタネだけ。鮨屋で出るつまみとは、タネを切ったお刺身が定番です。