楽観視できない銀行業界の未来
成長産業に返り咲かせる手立ては
未来を的確に予見しつつ、未来に向けて準備をしておくことは、ビジネスリーダーの役割だ。日本では少子高齢化による人口減少社会が到来するが、これは国内市場の縮小を意味する。人口減少社会は、「来るか来ないか?」の問題ではなく、「いつ来るか?」の問題であり、これはかなりの精度で予測できる未来だ。
このような未来を迎えるなか、銀行業界には将来を楽観できる要素が少ない。かつて銀行業界は、就職先人気、株式時価総額、年間の業績など、あらゆる指標において日本産業界の上位に君臨していたが、今や見る影もない。
国内経済は長い低成長が続き、民間企業からの旺盛な資金需要は期待できない。域内人口減少を背景とした預金の減少は、地方を地盤とする地域金融機関を中心に銀行の体力を奪い始めている。銀行は貸出収益の減少に歯止めをかけられず、投資信託の販売といった手数料ビジネスを新たな収益源として育てようとしている。
しかし、金融業に長く携わってきた筆者からすれば、銀行は新たな収益モデルを探すよりも、本業であり最大の強みでもある貸出にもっと真剣に取り組むべきではないかと思う。むしろ銀行は斜陽産業ではなく、フィンテックの広がりに伴い、とてつもない成長産業に返り咲く可能性があるとすら思える。
インターネットを取り込んだ金融業(ネット金融)は着実に成長している。筆者は1990年代のバブル後に銀行員となり(つまり、あの半沢直樹と同世代だ)、90年代後半の金融危機の大波をまともに受けて銀行業界を離れた。もう金融は懲り懲りと思っていたが、折しも2000年代のドットコムブームが到来し、筆者はそこに金融の新しい未来もインターネットの周縁から生まれるのではないかという期待を抱き、ネット金融の世界に足を踏み入れた。
ネット金融は2000年代に入り、ブロードバンド接続、スマートフォンの普及などを追い風として大いに進化した。2009年に登場したビットコインは、ブロックチェーンという新たなイノベーションが金融の世界を変えるかもしれないという可能性を我々に抱かせている。
そして現在では、「フィンテック」という素敵な新語も与えられ、ネット金融は世界中の大手銀行から大手IT企業までもが新しい金融サービスを開発・提供している。筆者は今も、20年前に感じた期待感と同じくらい、いやそれ以上の期待感を金融の未来に感じている。