工事は順調に進み、今年2月には特に難しい屋根の工事が終わり、現場でも「ピリピリした状態が少し和らいだ」と工事関係者。予定通り今年11月末の竣工にめどが付き、来年元日開催の第99回全日本サッカー選手権大会(天皇杯)決勝がこけら落としに決まった。

 順調なのはスケジュールだけではない。工事費もゼネコンが赤字を抱えずに済む可能性が高い。

 海外の五輪スタジアムの工事費は、16年夏のブラジル・リオデジャネイロ大会は改修で約490億円、12年夏の英ロンドン大会は新設で約570億円(為替レートは竣工時)。海外の会場は新国立よりも狭く、地下駐車場などのスペックが異なるため単純比較はできないが、新国立は見直し後の工事費も大きなものだった。

 それでも建設業界では「赤字工事になるのでは」とささやかれた。ザハ案まではいかなくとも著名建築家の凝ったデザインを実現するのは難易度が高い上、着工が1年遅れてタイトな工期だったからだ。

 見立てを覆すに至ったのは、「時間が限られていたからこそ、施工しやすい発注(デザインビルド)方式を採用した」(ゼネコン業界関係者)ことで勝ち目が見えたからだろう。

 撤回されたザハ案では、設計事務所だけで構成された設計JVがプロジェクトを先導していた。

 スタジアムの屋根とスタンドを施工するゼネコンは、設計JVが描いた設計図を受けて、実際に建物を建てるための施工図を描き直す必要があった。手間がかかり、コストも削減しにくい。

 慎重に見積もりをしても、工事中にデザインが修正され、それを実現するための工程が増えるなどして採算が取れなくなり、ゼネコンが赤字を抱える可能性もあった。