デンマーク人の考え方のベースにある
「ヤンテロー(ヤンテの掟)」とは?

 たとえば東京にいて、ちょっと店にでも入った日には、物欲のない人でもいろいろと買いたくなってしまうでしょう。ブランドの鞄になんかまったく興味がないのに、雑誌を見ていると急に欲しくなってしまうように、常に短期的な利益・満足を優先する傾向が出てしまうのです。

 反対に私の暮らすハワイでは、モノにこだわっているほうがむしろかっこ悪いぐらい。海の目の前に、ビシッとしたスーツできめて、すごい車で乗りつけても意味がないのですから。モノをはじめとする短期的な利益の選択肢が少なければ、そのぶん経験や体験に力を注げます。結果として新しい幸せに近づけるというわけです。

 また、もうひとつ印象的だったのは、製薬会社「ノボ ノルディスク」の経済部で働く、フレデリック・ディットレーヴ・オッテトロエルさんの言葉。

[北欧現地インタビュー:幸福観とモノ編]<br />物質的なモノから幸福度を感じられる時代は終わった

「浪費しようと思えば、おいしいものを食べに行ったり、すごいシャンパンを買ったりもできる。でもする必要がないし、人に見せることもない。お金があるからといって、それを自分の表札に書いておく必要はないんです」
フレデリック・ディットレーヴ・オッテトロエルさん/デンマーク/製薬会社勤務

 こうした考え方のベースになっているのは、「ヤンテロー(ヤンテの掟)」でしょう。これはデンマーク人なら誰もが知っている、いわゆる十戒のようなもの。

 たとえば、「自分が特別だと思い上がるな」「自分が人より善良だと思うな」「自分以上の人間はいないと思うな」「他人のやさしさに期待するな」「他人に何かを教えられると過信するな」など。ひと言でいうなら、「身の丈を知る」というところでしょうか。

 逆にアメリカなどには、成功した人はすごい車に乗ったり、クルーザーを買ったり、豪邸を建てたり、それを見せるのがいいことという発想があります。車にしても、高級時計にしても、物質的な満足を与えてくれるものは、みんなそういう側面があるでしょう。

 北欧の中でもデンマークに限ったことですが、彼らが物質至上主義に走らないひとつの理由は、このヤンテローの存在があるのかもしれません。