年末の書き入れ時に実力を発揮するAIチャットボット

 サッポロ人事が導入したもう一つの「自動化」が社内からの問い合わせ対応のための「AIチャットボット」だ。

ビール営業の書き入れ時である年末に、実力を発揮するAIチャットボットビール営業の書き入れ時である年末に、実力を発揮するAIチャットボット 拡大画像表示

 たとえば年末調整の時期になると、書類作成のやり方がわからず、人事に問い合わせる人も多い。同社の場合、そうした書類の問い合わせでパンクしてしまうため、年末になると人事だけでなく、経理や総務、ITヘルプデスク担当者まで、本来業務そっちのけで対応に追われたが、それでも「書類の書き方を問い合わせたら1日待って仕事が終わった」という営業担当者が愚痴をこぼすのが毎年の恒例だった。

 主力のビール事業の営業担当者は、ちょうどその年末が書き入れ時。年末調整のために時間を費やすわけにはいかないという気持ちは理解できる。

 折しも、同社グループのオペレーション業務を行う機能分担会社であったサッポログループマネジメント(SGM)のグループIT統括部にいた河本英則さん(現在はサッポロHD 改革推進部 BPR推進室マネージャー)は、銀行でAIチャットボットを導入したというニュースを見て、「これだ」とひらめいた。そのアイデアが「社内問い合わせAIチャットボット」だ。

 2016年末にはサッポロビールの社内公募制度に応募し、役員プレゼンを通過。2017年から実用に向けて動き始めた。

 しかし、実態調査を始めたところ、AIにQ&Aを覚えさせるためのマニュアルがそもそも存在しないことが分かる。まず、「Q&Aを作成する上では欠かせないナレッジ(経験値や知見)がどこにあるのか」を探すことから始めなければならなかったのだ。

 すると、人事担当者それぞれが自身の端末に知識を溜め込んでおり、ナレッジが属人化していることが判明。とはいえ、本人たちは「よく問い合わせがある事柄」をまとめてあるだけなので、どれがナレッジなのか自分たちでは判別できない。どんな質問が多く寄せられ、どんな回答を返せば疑問が解消されるのかを、一問一答形式まで落とし込む必要があった。

 「ナレッジを持っている社員に入力をお願いすると、日々の業務が後回しになってしまうので、こちらでひたすら入力しました」と河本さん。

 AIは自然言語処理に強い野村総合研究所の「TRAINA(トレイナ)」、FAQ(よくある質問とそれに対する答えをまとめたもの)のデータベースはオウケイウェイブの「OKBIZ.」を採用し、まずはサッポロHDのグループ会社であるサッポログループマネジメントで試験運用したところ、6割の質問が正しい回答にたどり着いた。申請手続きも社内イントラへ誘導するだけでよいパターンも多く、利用者の満足度は9割と、一定の成果を上げた。

 この結果を受けて、この仕組みはグループ全体へ広げていく方針だ。まずは今年6月にはグループ傘下のサッポロビールへの展開を予定している。

 「いまSGM内で貯めたFAQが2000件に達しています。特に酒税関連や、そのときに開催しているキャンペーン、あるいは商品特性など、営業担当者が現場で聞かれたときにSGMに電話で確認していたわけです。これがオンライン上で解消されればその場でお客様に即答できるようになる。ビジネスのスピードも上がるはずです」(河本さん)

 「人事部の仕事は、『個人対個人』の人事・労務管理に移ってきています」と高橋さんは言う。人事の仕事は個人のキャリアアップや体調管理など、個々の対応へと業務の中心がシフトしつつある。人事担当者は、自分の蓄積している業務の細かなナレッジを放出し社内で共有することに抵抗があるかもしれない。これまで蓄積してきた自分のキャリア、自身の存在意義が失われてしまうように感じるからだ。

 しかし、時代を経て人事部の仕事は一変した。人事担当者が「ナレッジ」を抱え込んできたように、かつての職人芸はもはや通用しない。

 サッポロHDの事例から、本質的な「人事部」の変化が感じ取れるのではないだろうか。