離脱交渉長期化で英景気に変調、現地で見た国民の深刻な「交渉疲れ」英国の2019年1~3月期実質GDPからは、膠着するEUからの離脱問題が景気動向に影響を与えていることが見てとれる(写真はイメージです) Photo:PIXTA

離脱前の駆け込みを受けて加速
1~3月期の実質GDP

 5月10日に発表された英国の2019年1~3月期実質GDPの内容は、膠着する欧州連合(EU)からの離脱問題が、英国の景気動向を大きく左右していることを物語るものだった。成長率自体は前期比0.5%増と、18年10~12月期(同0.2%増)から持ち直したが、この動きは当初の離脱期日である19年3月29日を目前に、在庫が積み増されたことによるところが大きい。

 産業別のGDPの動きを見ても、19年1~3月期は製造業が堅調であった。ただ離脱交渉が19年10月末まで延期されたことから、19年4~6月期に入ると在庫の取り崩しが生じて、GDPの成長が下押しされる可能性がある。事実、19年1~3月期の設備稼働率は81.3%と18年10~12月期(80.2%)から上昇したが、19年4~6月期は80.7%に低下する見込みであり、在庫の存在が生産の重荷になると見られる。

 EU離脱前の駆け込みの影響は消費にも表れた模様だ。19年1~3月期の個人消費の前期比成長率は0.7%増と、18年10~12月期(0.2%増)から大幅に上昇した。また、手控えられていた設備投資も前期比0.5%増と、5四半期ぶりにプラスに転じた。こうした駆け込み需要という特殊要因に基づく内需の強さを反映して、輸入も前期比6.8%増と非常に高い伸び率を記録した。

投資が増えなくても
雇用が増えるパラドクス

 19年1~3月期に久々に増加した設備投資であるが、まだ減少トレンドそのものに歯止めがかかったわけではない。企業が設備投資を手控えている理由もまた、EU離脱交渉の不透明さにある。EUとの将来的な通商関係のあり方が見定められないため、企業は設備投資を手控えざるを得ない状況が続いているのだ。こうした流れは製造業だけではなく、お家芸である金融などの非製造業でも同様である。

 ところで、設備投資には二面性という性質がある。設備投資は生産増加に加えて雇用増にもつながり、景気を押し上げるというものだ。裏を返せば、設備投資が手控えられればそれだけ雇用の改善が遅れることになる。

 ただ、現状の英国では、設備投資が低調なわりに雇用は堅調を維持しており、直近の失業率は4%を下回って労働需給はタイト化している。その結果、賃金上昇までも加速するというパラドクスが、現在の英国では生じている。