「被告はまるで、壊れたレコード」。弁護側は筧被告の認知症をこう表現した。控訴審は被告の出廷義務がないため、筧被告は姿を見せなかった。

 しかし、弁護側が訴訟能力についての主張を始めた直後、裁判長が制止を命じた。

「被告人から出廷希望の連絡がありました」

 静まり返った法廷。目をつぶって待ち続ける裁判官、検察官、弁護士、傍聴人……。だが筧被告は結局、姿を見せなかった。

 12~13分の休廷の間、無表情の裁判官。イラついた感じの検察側、眉間にしわを寄せ困惑したような表情の弁護側。結局、筧被告が不在のまま再開された公判は淡々と進んだ。

 筆者の後輩である全国紙社会部デスクは「担当した記者は少しショックを受けていたようでした」と話した。

 記者は何度か筧被告に接見していたという。「会話は少しかみ合わないところもあったが、しっかりしていて重度の認知症とは感じませんでした」という報告だった。

 罪に問われた4人以外にも、証拠がなく立件されなかった不審死した男性はほかにもいる。複数人の男性に対する殺害の罪に問われ、結果次第では自身の生命も尽きる……。

 重大な事件なのに、法廷という空間ではそういった切迫感が一切感じられない。この記者は言いようのない不気味さを感じたという。

 では、主観を抜きにした公判での検察側・弁護側の主張はどうだったか。