反対勢力を無視しない
「構想の修正」が重要

 もちろん、どんなに優れた構想であっても、それがすんなり実現するとは限らない。画期的な構想であるほど、反対者も多いものだ。

 前島密は、何らかの障害や反発があっても、そこで諦めることも、反対者を無視したり、権力で押さえつけたりして、事を強引に推し進めることもなかった。柔軟に「構想の修正」を行いながら次善の策を立てていったのである。

 例えば、国営の郵便事業が始まり、郵便局にあたる郵便御用取扱所や郵便箱(ポスト)が各地に設置されるようになると、どうしても従来の飛脚屋の仕事があぶれてくる。そのため、あちらこちらで飛脚屋から反発の声が上がった。

 それに対し前島は、飛脚屋の総代と話し合い、「陸運元会社」の創立を持ちかけた。

 陸運元会社には、郵便物はもとより、郵便切手の全国配送、各郵便局で使用する用品、為替や貯金の資金の運送まで、さまざまな業務を独占的かつ国の保護の下で任せる。そこに、従来の飛脚の労働力を集約することにした。この会社が、後に「日本通運」となる。

 ところで冒頭で触れた、私が起業に参画したインターネット会社にも、大きな障害が立ちはだかった。当時、国の通信事業を管轄していたのは郵政省(現・総務省)だったが、われわれの構想に反対し、なかなか認可を下ろそうとしなかったのだ。

 インターネットは国際通信を含む事業だ。しかし、当時はベンチャー企業による国際通信事業の前例がなく、事業者として認めてもらえなかった。そこでの交渉に手間どり、足止めをくらったわれわれの会社は、倒産寸前にまで追い込まれた。

 仕方がないので、国内に限定したサービスを開始し、地道に顧客を集め実績を示すことにした。そして、1年以上にわたる先の見えない、粘り強い交渉の末、ようやく郵政省に国際事業開始を認めてもらえた。

 くしくも前島が礎を築いた郵便および通信事業を管轄する省庁が、新しいインフラを築く上での「障害」になったわけだ。しかし、われわれは基本的な構想を変えることなく、できるところから手をつける「構想の修正」でなんとか乗り切ることができた。

 本書には、前島密が、近代国家のインフラに不可欠な「いつでも、どこでも、誰でも、自由に、どこにでも」を実現するために、実に多様な構想を描き、障害を乗り越え、あるいは回避しながら成功に導いたのかが、詳しく描かれている。

 その構想力は、インターネットなど現代のインフラ構築をはじめ、さまざまな分野に応用できるだろう。ぜひ、これからの新たな構想を描くヒントにしてほしい。

(文/情報工場シニアエディター 浅羽登志也)

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