視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のシニア・エディターである浅羽登志也氏がベンチャー起業やその後の経営者としての経験などからレビューします。
地元を大切にするトヨタが
「米国の拠点を移転」という衝撃
以前この連載にも書いたことがあるが、私は日本酒が大好きだ。好きが高じて、酒蔵の訪問を趣味の1つとしている。
昨年は愛知県豊田市にある酒蔵を訪問した。
豊田市は、私が住む長野県と、愛知県の県境にある。自宅から車で国道を南下し、県境の少し手前にある「道の駅」で少し休憩してから、豊田市内に入った。
するとどうだろう。県境の前後で同じような田舎道が続いているのに、豊田市に入ると急に自動車の数が増えた。街並みも、どことなく豊かに感じられる。
県境に近い、豊田市側の「道の駅」にも寄ってみた。先ほど休憩した「道の駅」とはそんなに離れていないのに、明らかに人が多く、にぎわっている。
豊田市は、トヨタ自動車の本社工場がある、言わずと知れたトヨタのお膝元だ。しかし、だからと言ってこれほどの違いがあるのにはびっくりした。
トヨタ自動車創業の1937年当時、現在の豊田市は挙母(ころも)町という名前だった。トヨタがこの土地を選んだのは、格安価格が地元から提示されたからだそうだ。
第2次世界大戦後、大小の自動車関連企業が集まり、全国有数の「クルマのまち」に成長。挙母市(1951年に町から市に)は1959年に豊田市と地名を変え、現在は製造品出荷額等が全国トップの工業都市となっている。
まさに豊田市はトヨタとともに、トヨタも豊田市と一緒に発展してきたと言える。
トヨタはこんなにも地元を大切にするわけだが、同社が60年もの長きにわたって北米拠点を置いていたカリフォルニア州ロサンゼルス経済圏を離れたのをご存じだろうか。移転先は、「テキサス州」である。