あえて特許を取らず「絶対秘密」を貫くコカ・コーラ

 忙しいビジネスパーソンの皆さんは、コンビニおにぎりでお昼をすませてしまうことも多いかもしれない。

 コンビニおにぎりは、海苔がパリパリの状態で食べられるように、ご飯と海苔がフィルムで分けられて包装されている。外装のビニールをはがす時にフィルムが抜けて海苔がご飯に巻きつく仕組みだ。

 これにはいくつかのタイプがある。以前は、包装の三角形の頂点にあたる部分を切り取り、そこから中のフィルムを引き抜く「パラシュート型」が主流だった。その後、頂点から底辺に向けて直線状に包装をカットテープで切り取り、左右の二角を引っ張るとフィルムが抜ける「セパレート型」が多くなった。

 いずれのやり方も、美味しいおにぎりをスムーズに取り出して食べられるよう、考案者がアイデアを絞り出し、工夫をこらしたものだろう。それが独創的で商品の競争力の源泉になるものならば、簡単に他人に真似されたくないはずだ。

 このようなアイデアや仕組み、発明品などを、考案者の財産として一定の期間保護する権利を「知的財産(知財)」という。

 特許は代表的な知財だ。先ほど紹介したおにぎりの包装にも特許を取得したものがある。企業で新たな技術が開発されると、一般的には権利を守るために特許出願が推奨される。

 だが、特許出願が、アイデアを保護するどころか、盗用につながるケースもあると聞いたら、信じられるだろうか?

 本書の著者である新井信昭氏は、東京農工大学大学院や、ものつくり大学の非常勤講師として知的戦略論を教えるかたわら、株式会社グリーンアイピー代表取締役と知財コミュニケーション研究所代表を兼務する知財の専門家だ。

 新井氏は精密機器メーカーに勤務しながら、39歳で弁理士本試験に合格。その後、芝浦工業大学夜間部の学生と特許事務所所長の二足の草鞋を履き、同大学2部電気工学科を卒業。さらなる知見を得るために52歳で東京農工大学大学院に入学し博士号(工学)を取得した。知財では独自性が重視されるが、その専門家である新井氏も、なかなかユニークな経歴を持つ人物なのだ。