「腫瘍の取り残しがないのに手術をするってどういうこと?」 
「悪性度が低いなら、もし再発しても腫瘍が大きくなるのに時間がかかりそうだし、手術を急がなくていいのでは?」
「リンパ管侵襲が陰性なのに、なぜリンパ管を取らなくてはならないの?」
「もし、手術後に排便障害になり、さらに再発もするという踏んだり蹴ったりの結果になったらどうしよう?」
「再発の可能性20%という数字の根拠はどこにあるの?」……等々。

 関連がありそうな医学論文なども読み漁ったものの、自分にぴったりのケースはありません。自分と同じ大きさの腫瘍が同じような場所にできていて、それを手術した場合と手術しなかった場合を比較した統計学的なデータというものは都合よく存在しなかったのです。

患者はわからなかったら遠慮してはダメ!
聞きたいことを聞くべきである

 担当医に詳しく聞きたかったのですが、自分よりもよほど重症であろう患者さんたちが大勢待っている状況では、担当医を長時間質問攻めにするのもはばかられました(本書の監修者・都立駒込病院の高橋慶一先生が「患者は遠慮せず聞きたいことを聞くべきだ」とおっしゃっています)。

 悩んだ末に、私は手術を行わずに経過観察することにしました。「後で後悔しませんか?」と外科医に念を押されましたが、決意は変わりませんでした。

「独身ということもあって、再発のリスクも怖いけれど、排便障害を抱えて1人で年を取るリスクも怖い。これまでの人生に悔いもない。再発しても何年かは生きられるだろう。将来何らかの原因で死ぬ確率は100%なんだから、心配しすぎても仕方がない……」

 当時はそんなふうに考えたのです。

 今回、大腸がんの本を編集・制作していく過程で、カルチノイドの細胞がリンパ管あるいは静脈に広がっていた時に手術すべきかどうかについては、医師によって見解が分かれることを知りました。監修の高橋慶一先生は、「腫瘍の大きさが小さいこと、グレード1で、リンパ管侵襲はなく、静脈侵襲の程度も軽いことを考慮すると、経過観察とし、再発が起こらないかどうかを定期的に検査しながら経過を見ていくことも1つの選択肢ではないか」との見解でした。