A子は泣きべそ顔で引き下がった。D社長はため息をつきながら、「明日、社労士のEさんに相談してみるか」と思った。

会社が負担した研修費用は
退職時に返還請求できるのか

 翌日、D社長は訪問してきたE社労士の顔を見るなり、人手が足りないため業務が回らないことを訴えた。そしてA子の退職に関してE社労士にこう告げた。

「とにかくA子さんに退職されると困る。だから辞めるなら研修費用と研修期間中の給料を返せって言ってやった」

 E社労士はあきれた顔をした。

「D社長、その件、いつ決めたの?」
「4年前。研修だけ受けてすぐに辞める社員がいると困るからだよ。就業規則に入れて労働条件通知書にも記載済みだ」

 D社長は労働条件通知書をE社労士に見せた。

「退職するA子さんに研修費用を請求するのは無理だよ」
「なぜ?問題ないはずでは…?」
労働基準法16条に違反するからなんだ」

 E社労士は労働基準法16条(注)について説明したが、D社長は納得していなかった。

労働基準法第16条:賠償予定の禁止
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

「どんなケースでも研修費用の返還請求はできないのか?」
「そんなことはないよ」
「じゃあ、その違いをわかりやすく説明してくれよ」

 D社長がこう言うと、E社労士は返還請求が認められるケースと認められないケースをそれぞれ説明した。

<研修費用の返還請求が認められる可能性があるケース>
業務に直接関係のない自己研鑽的な研修の場合(参加は従業員の自由意思で決められる)で下記の契約がなされていること
・研修費用は貸与すること。
・○年以上(*)の勤務で、研修費用の返済を免除する。免除になる前に退職したら費用を返済しなければならないこと。
*会社として独自で決めるもので、1年とか3年などの例がある。
<認められない可能性が高いケース>
業務に就くために必須の研修であること。
・従業員の自由意思ではなく、会社から命令を受けて参加したもの。
・研修費用が会社負担となっており、貸与ではないこと。