具体像が見えてこない
「地域共生社会」の中身
高齢者ケアの大目標だった「地域包括ケア」が、最近では「地域共生社会」にとって代わられつつある。介護保険に係る事業の関係者たちは、厚労省や自治体からの発信でそのような印象を抱いている。
だが、「地域共生社会」について、どのような中身なのか伝わってこない。なにしろ、3年前に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」の中で、「子供・高齢者・障害者等全ての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り、高め合うことができる社会」と定義されて以来、具体的なゴールへの道筋が描かれていない。
そこへ、昨年7月に「地域共生社会研究会」(委員10人、座長・宮本太郎中央大学教授)が設置され、この3月末に「地域共生社会」のあり方を示す初めての報告書が出された。「参加と協働によるセーフティネットの構築――誰もがつながりを持ち、役割と物語が生まれる地域社会へ」である。
同研究会は、厚労省社会・援護局の調査研究事業を受託した一般社団法人日本老年学的評価研究機構(JAGES)が設けたものだ。とはいえ、厚労省社会・援護局が実質的にリードし、同省の今後の施策を提言する役割を担っている。
この役割は、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2008年から厚労省老健局の調査研究事業を受託して「地域包括ケア研究会」(メンバー11人、座長・田中滋埼玉県立大学理事長)を設け、報告書を6回まとめてきた構図と同じである。これまでの地域包括ケアの実現を目指す施策は、一連の報告書に沿って介護保険法の改正がなされてきた。
新しい介護サービスもこの報告書から生まれた。2010年3月に公表された第2回報告書で「24時間対応の在宅サービスの強化」がうたわれ、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」の登場につながった。医療や介護、住まいなどの関係を示したカラフルな「植木鉢」の図は、今ではすっかりおなじみになっているが、2013年3月の第4回の報告書で初めて描かれた。
「地域共生社会」がこれからたどる道のりも、同様の歩みとなりそうだ。それだけに、研究会の報告書に関心が寄せられ、期待されていた。だが、公表された報告書は、残念ながら抽象的な言葉で理念が語られ、具体的な施策提言はほとんどなかった。
「人々が出会い、価値を共創するプロセスそのものである」「従来の『課題解決型』支援に加えて、『伴走型』支援を」などの文言が並ぶ。「地域社会から漏れる『制度の狭間』が課題」「専門職に加え住民相互の『伴走型』支援が必要」「社会保障の根拠は憲法25条の生存権に加え、同13条の幸福追求権も」など心構えは述べられた。