孫正義・ゴーン・岡藤正広の「頭の中身」を哲学で読み解くPhoto by Toshiaki Usami,Kazutoshi Sumitomo,Masato Kato

2019年6月8日号の週刊ダイヤモンド第1特集は「仕事に必須の思考ツール 使える哲学」です。答えの見えない難問に挑むとき、哲学者たちによって培われてきた洞察や思考スキルが役に立つのです。実際、世界的な大経営者たちの中には、哲学を専攻している人が多くいます。そこで、日本の有名経営者たちの思考を哲学的思考でみてみると、どう読み解けるのでしょうか。本誌等に掲載されたインタビュー記事を基に、議論の方法やその論理に焦点を当てながら分析していきます。(本記事は特集からの抜粋です)

孫 正義
「大ぼら吹き」となって
派手な未来を語る理由

 ソフトバンクグループの創設者であり、代表取締役会長兼社長を務める孫正義氏は、これまで多くの独創的なビジネスプランを提示し、壮大な会社の成長戦略を描いてきた。こうした彼の姿勢は「大ぼら吹き」と呼ばれ、自身もこの愛称を気に入っているようである。

孫 正義(ソフトバンクグループ会長兼社長)。Photo by Toshiaki Usami

 孫氏が「大ぼら吹き」とされる理由は、彼が示すビジョンが理解困難であるだけではなく、それを実現する具体的なプランが他者には想像できないからである。

 具体例を挙げよう。ソフトバンクは、2010年の株主総会において、「新30年ビジョン」を発表し、年間平均17%の成長を実現して時価総額を2兆7000億円(当時)から、200兆円にまで押し上げることを目標に掲げた。

 30年後の人々から最も必要とされるような企業になれば、結果的にこうした目標は達成されるという。だがどうすれば、30年後の人々のニーズを満たす企業になれるのか。本誌10年7月24日号のインタビュー記事で、具体的な実現方法を記者から尋ねられた孫氏は、「具体的な戦術には踏み込んで」いないが、「明確な方向性は示した」と述べている。