ウィッグ(かつら)とどう向き合うか
周囲の理解を得るためには

 パネルディスカッションは現在ウィッグを着用している2人のゲストを招いてのものであった。ウィッグとはつまり、かつらのことである。このお二方の話がべらぼうに面白いのは打ち合わせの段階で知っていたので、これは蛇足だがコーディネーターとしては人選に非常に恵まれた案件であった。

 ゲストの高井竜司氏はサッカーのゴン中山選手のマネージャーで、中山選手から「何でもチャレンジ」と強い勧めを受け、Mr.アデランスコンテストに出場しファイナリストとなった。ウィッグ装着前は頭頂部が薄毛となっており、ビフォーの写真を拝見する限りではそう思えないのだが職務質問をよくされる日々を送っていたそうで、日に2回職務質問を受けたことがあるほどの不審なオーラを漂わせていたそうである。

 明るく気さく、かつ優しい方であるが、本人が語るところによれば特にウィッグの装着をするようになってから周囲から「目つきがすごく優しくなった」と言われるようになった。高井氏の奥方様も「家庭内不倫しているみたい」と大層喜んだそうで、「自分では変わったつもりはないが周りが変わった」と語り、「周りのみんなが笑顔になっていた」と会場の笑いを誘っていた。

“対人関係は鏡”の原則で諸事を見ている筆者個人の立場としては、どちらかが一方的に変化するとはなかなか考えにくいので、おそらく高井氏にもウィッグ装着によって自覚しない変化がもたらされたのではないかと推測するが、「周りの人の笑顔」を勝ち取ったのが高井氏の姿勢に他ならないことは確かであろう。

 昔からお笑いなどで「かつらネタ」が鉄板としてあるが、あれが笑いとして成立してきた理由には「ウィッグの装着=秘匿性が高い・薄毛隠しの恥ずかしいもの」といった認識を見る側が共有してきたからである。そうした空気がある世の中でウィッグの装着をオープンにすることは勇気のいることであり、多くの人ができることではない。

 高井氏はある種の開き直りでもって「いじっていいですよ」といわんばかりにウィッグの装着をオープンにし、それが周囲の好感を呼んだ。本人がオープンにしているのだから周りの人も緊張することなく、ウィッグについて高井氏と会話を交わすことができる。それまでのウィッグが「ネガティブにあったものをプラスしてゼロに持っていく」だったはずが、姿勢を変えることで「ゼロからプラスしてよりポジティブな値を得る」というパラダイムシフトが可能となる。

 このことについてはもう1人のゲスト、楠木建教授が非常に面白いたとえを用いて打ち合わせの際に説明してくれた。楠木教授は一橋大学大学院で経営戦略の研究をされているが、縁あってアデランスと仕事をともにするようになり、自身が趣味でやっているバンドでパフォーマンスをする際に「ロックな髪型」として、ロングヘアのウィッグを着用するようになった。