テレビCMからクリエイティブ性は失われたのでしょうか?クリエイター魂にあふれた「作品」と呼ぶにふさわしいCMが多かったのも、今は昔。変化の背景には、どんな事情があるのだろうか? Photo:PIXTA

昭和の時代は、クリエイターの創作魂に満ち溢れたアーティスティックなCMが多かった。それなのに、今のCMは歌って踊っての寒いギャグばかりだし、売らんかなの精神が強くて品のないCMばかり…。そんな年配の人の意見を聞くことがあるが、果たして本当に日本のCMにクリエイティブ性は失われてしまったのだろうか。PRプランナー・ネット編集者の中川淳一郎氏に聞いた。(清談社/岡田光雄)

ポップアートの巨匠や
音楽を聴きながら瞑想する猿も登場

「アカ、ミドリ、アオ、グンジョウイロ、キレイ…」

 独特な世界観ゆえに覚えている人も多いだろうこのフレーズは、1983年から84年にかけて放送されたTDKビデオテープのCMで使われていたものだ。ポップアートの巨匠、アンディ・ウォーホルが、テストパターンの映ったブラウン管テレビを持ちながら、片言の日本語で披露したセリフである。

 1987年には、猿が音楽を聴きながら瞑想するSONY ウォークマンのCMが話題になった。大自然の中、高潔な表情で音楽を聴く猿の立ち姿と、「音が進化した。ヒトはどうですか。」のキャッチが印象的だった人も多いのではないだろうか。

 中川氏は、この頃のCMには作品性やメッセージ性などがあった、と振り返る。

「昔の企業はCMでブランディングをしていたんだと思います。CM映像の中には世界観があって、“新しい文化を世に提供しよう”みたいな気概を感じました。今でもカップヌードルのCMとかは、あまり商品自体を前面には出しませんが、あれは完全にブランドができているからなせる技でしょうね」

 こう聞くと、読者の中には「どうせ懐古心からそう感じるだけだろう…」と思う人もいるに違いない。CMのような創作物を観たときにどのような受け止め方をするかは千差万別だし、中川氏自身も「今でも資生堂やキユーピー、サントリーなどのように、ブランディングを意識したCMはある」と語る。

 しかし、テレビCMのトレンドは1990年代以降、大きく変わったという。