「迷ったら突き進め。間違ったらすぐ戻れ。」「純粋化した組織は弱い。特異性を取り込み、変化できるものが生き残る。」「知識と経験に胡座をかくな。自己研鑽なき者に未来はない。」……などの行動規範は、時代によって入れ替えるという日清食品。ネットやテレビCMで型破りなブランドコミュニケーションを仕掛け、稀代のマーケターでもある同社の安藤徳隆社長に、マーケターに不可欠な言葉のセンスや、引き出しの増やし方について『マーケティングの仕事と年収のリアル』著者・山口義宏さんが聞きました。(撮影:疋田千里)

「スマートワーク」を考えてもらうための…「サボろう」

安藤徳隆(あんどう・のりたか)
日清食品株式会社 代表取締役社長
1977年生まれ。2004年安藤スポーツ・食文化振興財団を経て、2007年日清食品に入社。経営企画部長に就任し、以後、日清食品ホールディングス取締役・グループマーケティング責任者(CMO)、専務、米州総代表、グループ戦略責任者(CSO)を歴任する。2015年4月より現職。

山口義宏さん(以下、山口) 前回伺ったような、コミュニケーションや商品に関する企画会議での議論やフィードバックのすべてが企業文化そのものですよね。何が奨励され、何がダメなのか。結果のレビューについても「赤字は出たけど、チャレンジしたから良しとしようじゃないか」という空気があって、戦犯とはいえ出世の芽がなくなったわけではなし…とみんなが思っているような、雰囲気が大事なんだろうなと思いました。

安藤徳隆さん(以下、安藤) そのあたりを明文化した「日清10則」 という行動規範があって、時代に合わせて内容も入れ替えています(下記参照)。

 たとえば「迷ったら突き進め。間違ったらすぐ戻れ。」は、特に日清食品らしいですよね(笑)。「ファストエントリーとカテゴリーNO.1を目指せ」「自ら創造し、他人に潰されるくらいなら、自ら破壊せよ。」などは、まさに「カップヌードルをぶっつぶせ!」の精神です。

 「外部の英智を巻き込み、事業を加速させよ。」は昨年入れ替えた項目のひとつです。自社開発かオープンイノベーションかという方針は、どの会社でも時代によって行ったり来たりしますが、当社はいま内向きの傾向が強いので、オープンイノベーションを加速させようと、あえて追加しました。

「日清10則」
01 .ブランドオーナーシップを持て
02. ファーストエントリーとカテゴリーNO.1を目指せ
03. 自ら創造し、他人に潰されるくらいなら、自ら破壊せよ。
04. 外部の英智を巻き込み、事業を加速させよ。
05. 純粋化した組織は弱い。特異性を取り込み、変化できるものが生き残る。
06. 知識と経験に胡坐をかくな。自己研鑽なき者に未来はない。
07. 迷ったら突き進め。間違ったらすぐ戻れ。
08. 命令で人を動かすな。説明責任を果たし、納得させよ。
09. 不可能に挑戦し、ブレークスルーせよ。
10. 仕事を楽しむのも仕事である。それが成長を加速させる。

山口 時代に即して項目を改めるというのも、いかにも日清食品さんらしいですね。

安藤 「純粋化した組織は弱い。特異性を取り込み、変化できるものが生き残る。」は、ダイバーシティの問題ですね。当社では「変人」をきちんと評価するようにしていて、全社内で二割くらいは「変人」がいて欲しいと思っています。当社が考える「変人」というのは、特定の専門領域では誰にも負けないような知識を持っている人のことで、そういう人は何かとてつもないことを成し遂げる可能性がある。別の角度からモノを見られる存在がいないと、爆発力が生まれてきませんから。

山口 その「変人」枠は、採用時にあるんですか? あるいは、後から「変人ぶり」がわかるものなのか……。

安藤 この場では明確に言えません(笑)。ほかに、「知識と経験に胡座をかくな。自己研鑽なき者に未来はない。」は、成功体験に縛られがちな社員に向けた言葉ですね。競争の激しい市場で生き残りたければ、とにかく進化し続けろ、というメッセージです。

山口 メッセージの伝え方、言葉の選び方にも日清食品ならではのこだわりを感じますね。

安藤 どのように伝えるかは、とても大事なポイントです。たとえば、日清食品グループ全体で、年間総労働時間を2000時間以内にするスマートワークの導入が決まって、各事業会社の社長が社員に説明することになったのですが、朝礼で私が掲げたのは「サボろう」の4文字でした(笑)。「スマートワーク」って言ってもよくわからないけど、いきなり社長から「サボろう」と言われれば社員自身が色々と考えますよね? みんなが自分ゴト化してくれるんです。だから、「日清食品は、サボりまくっているのに、今よりも高い利益をあげる。それがかっこいいよね」という話をしたんです。

山口 社内向けも広告レベルのコピーワークですね、まさに。でも、そのひと手間の有無で、社内コミュニケーションも伝わる速度がまったく違う。

安藤 社員への問いかけを工夫することで、日清食品はすごく変わってきたという実感がある。だから、今度は、これをグループ全体に波及させようと思っています。「日清10則」の最後にある「仕事を楽しむのも仕事である。」も、自分自身が仕事を楽しむことができれば、周りも楽しませることができるし、自分の成長を加速させることもできる、と考えて新たに加えました。

 これは、私の座右の銘のひとつでもある、創業者・安藤百福の「仕事を戯(たわむ)れ化せよ」という言葉からきています。子どもの頃って、遊んでいるときには全然疲れを感じなかったじゃないですか? だから、仕事もそんな風に楽しめるようになればいいなと思っています。