オールドタイプは現代の問題を拡大再生産している

 さて次に、オールドタイプからニュータイプへのアップデートが必要だと指摘する2つ目の理由として挙げなければならないのが、これまで活躍していた人材=オールドタイプが発揮してきた思考・行動様式によって、資本主義というシステムが生み出す問題が拡大再生産されている、という点です(*1)。

 たとえば現在、世界中の都市で「ゴミ」は深刻な問題になりつつありますが、これは「量的な向上」を無条件に是とするオールドタイプの思考・行動様式が生み出した結果といえます。

 確かに、かつてのようにモノが不足している状況であれば、ひたすらに「量的な向上」を目指すというオールドタイプの行動様式は、時代の要請と整合していたかもしれません。しかし、現在のようにモノが過剰に溢れている状態で、ひたすらに「量的な向上」を目指せば、すでに過剰にあるモノを次々にゴミにしていくしかありません。

 こういった問題の原因を「資本主義というシステム」に求めて、これを何か別のシステムに切り替えることで解決しようということが、かつては考えられました。1960年代に世界中で盛り上がりを見せた学生運動はその一つの例と言えますが、結局のところ、これらの取り組みは、壮大な実験の結果、うまくいかないことが明らかになっています。

 つまり、今の私たちを取り巻いている「システムの大きな問題」を解決するには、システムそのものをリプレースするのではなく、システムそのものを微修正しながら、その中に組み込まれる人間の思考・行動様式を大きく切り替えることが必要だということです。

 この「思考・行動様式の切り替え」を、『ニュータイプの時代』ではオールドタイプに置換される「ニュータイプの24の思考・行動様式」という構図で示していきます。

 ポスト構造主義の思想家ジャック・デリダは、「脱構築」というコンセプトを提唱し、システムの内部における主従関係を逆転させ、隷属的な立場に置かれていたものを肯定しなおすことで、システムそのものの解体を伴わずに、システムのもたらす豊かさを回復させる可能性について論じました。

 私もまた、資本主義というシステムそのものの解体を伴わずに、そのシステムの内部においてかつて否定されていたものを再び肯定することで、システムがもたらす豊かさを回復させる可能性について本書で指摘します。つまり、私がこれから本書において述べるのは、少々大げさな言い方をすれば「資本主義の脱構築」ということになります。

*1 前段で「問題が希少化している」と指摘しながら、ここでは「問題が拡大再生産されている」としていることに矛盾を感じた読者もいるかもしれない。混乱を避けるために注記すれば、前段で指摘している「希少化する問題」は、市場取引によって解消が可能な顧客の不満・不便・不安といった問題、つまり「経済システムの内部で解消できる問題」を指しているのに対して、後段で指摘している「拡大再生産される問題」は、ゴミ、貧困、環境、虐待など、いわゆる「市場の失敗」あるいは「負の外部性」として整理される「経済システムの内部では解消が困難な問題」を指している。

ニュータイプは問題を「発見」できる人

 少しイメージしにくいかもしれないので、具体的な例を一つ挙げてみましょう。たとえば、20世紀の半ばから後半の時期にかけては「問題解決」の能力が極めて高く評価されてきました。この時期は、市場に多くの「不満、不便、不安」という問題を解消したいというニーズが存在していたので、それらのニーズを解消できる組織や個人は高く評価され、高い報酬を得ることができたわけです。

 しかし一旦、物質的なニーズや不満があらかた解消されてしまった状態、つまり21世紀初頭の現在のような状況になってしまった場合、問題を解決する能力がいくらあったとしても、そもそも「大きな問題」が提示されていなければ、その問題解決能力が富を創出することはありません。

 人類は原始時代以来、20世紀の後半までずっと「問題が過剰で解決策が希少」という時代を生きてきました。そのため、公的学校制度をはじめとした人材育成の基本的な目的は「問題解決能力の向上」に置かれています。

 ところが、私たちは人類史の中で初めて「問題が希少で解決策が過剰」という時代に突入しつつあります。このような時代にあっては、ただ単に「問題解決の能力が高い」というだけでは価値を生み出せません。

 ビジネスは常に「問題の発見」と「問題の解決」が組み合わされることで成立します。しかし、現在は「問題」そのものが希少になっているわけですから、ボトルネックは問題の「解決能力」ではなく「発見能力」に発生することになり、結果として問題解決者の価値が低減する一方で、問題発見者の価値が上昇することになります。これが「好ましい思考・行動様式は、テクノロジーや社会構造という文脈によって相対的に決まる」ということです。

 したがって、かつて好ましいと考えられていたオールドタイプの思考・行動様式がニュータイプのそれへと、どのようにシフトするかということを理解するためには、その前提として、どのようなテクノロジーあるいは社会の変化が発生するのかを考察する必要があります。

 次回は、オールドタイプからニュータイプへのシフトを促進する6つのメガトレンドについて考えてみましょう。

(本原稿は『ニュータイプの時代――新時代を生き抜く24の思考・行動様式』山口周著、ダイヤモンド社からの抜粋です)

山口 周(やまぐち・しゅう)
1970年東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。ライプニッツ代表。
慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修了。電通、ボストン コンサルティング グループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。
『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。その他の著書に、『劣化するオッサン社会の処方箋』『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』『外資系コンサルの知的生産術』『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)(以上、光文社新書)、『外資系コンサルのスライド作成術』(東洋経済新報社)、『知的戦闘力を高める 独学の技法』(ダイヤモンド社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)など。神奈川県葉山町に在住。