ベストセラー『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』が話題の山口周氏。山口氏が「アート」「美意識」に続く、新時代を生き抜くキーコンセプトをまとめたのが、『ニュータイプの時代――新時代を生き抜く24の思考・行動様式』だ。
「努力すれば夢は叶う」「一所懸命に頑張れば報われる」……こうした考え方は、これからの時代、大きなリスクがある。今の場所で歯を食いしばって地道に努力するのは無意味なのだ。報われるためには、「努力のレイヤー」を変え、新しいポジショニングを試す必要がある。
切り替わった時代をしなやかに生き抜くために、「オールドタイプ」から「ニュータイプ」の思考・行動様式へのシフトを説く同書から、一部抜粋して特別公開する。

【山口周】努力は本当に報われる?「1万時間の法則」がデタラメな理由

【オールドタイプ】今いる場所で踏ん張って努力する
【ニュータイプ】勝てる場所にポジショニングする

「努力すれば夢は叶う」という価値観の危険性

〈インタビュアー〉成功するアーティストの秘訣はなんですか?
〈アンディ・ウォーホル〉しかるべき時に、しかるべき場所にいる、ということだろうね。

 日の当たらない場所であっても、地道に誠実に努力すれば、いつかきっと報われる、という考え方をする人が少なくありません。つまり「世界は公正であるべきだし、実際にそうだ」と考える人です。

 このような世界観を、社会心理学では「公正世界仮説」と呼びます。公正世界仮説を初めて提唱したのは、正義感の研究で先駆的な業績を挙げたメルビン・ラーナーでした。

 ラーナーによれば、公正世界仮説の持ち主は、「世の中というのは、頑張っている人は報われるし、そうでない人は罰せられる」と考えます。

 もちろん、このような世界観を持つことで努力が喚起されるというのであれば、それはそれで喜ばしい面があることは否定しませんが、頑なに持つことは、むしろ弊害の方が大きいと言えます。

 注意しなければならないのは、公正世界仮説に囚われた人が垂れ流している「努力すれば必ず夢は叶う、もし夢が叶わないのだとすれば、それは努力が足りないからだ」というような極端な主張、まるで「努力原理主義」とでも言うしかないような主張です。

 確かに、モノを生み出すことがそのまま価値の創出に直結するような時代であれば、努力を積み重ねることでパフォーマンスを高めることができたかもしれません。

 しかし、これまで本書において再三にわたって指摘してきた通り、現在の世界では「モノ」が過剰化し、そもそもの「価値」の定義からして難しくなっています。

 このような時代にあって「努力すれば夢は叶う」という価値観に固陋(ころう)に執着するオールドタイプの思考様式は極めてリスクの高いものになりつつあります。