1696年7月28日号記事/井深大氏
 

「終身雇用」「年功序列」「企業内組合」──。戦後の日本企業が目覚ましい発展を遂げたのは、この3点を特徴とする「日本的経営」にあると喝破したのは、米国の経営学者、ジェームズ・アベグレンである。

 アベグレンは、1955年にフォード財団の海外研究員として来日して以来、日本の文化、経済、経営の研究を深め、58年に出版した『日本の経営』(ダイヤモンド社)の中で、この三つの特徴を欧米に紹介した。

 65年に米ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の設立に参画し、翌年にはBCG日本支社の初代代表を務めた。その後、日本国籍を取得し、上智大学教授やグロービス経営大学院大学の名誉学長などを歴任。日本的経営に関する研究の第一人者である(2007年5月2日没)。

 69年7月28日号では、そのアベグレンが、ソニー創業者の井深大(1908年4月11日〜97年12月19日)社長にインタビューを行っている。当時、ソニーといえば、米国で成功を遂げた“国際企業”の筆頭。「ソニーは果たして米国の会社か」というテーマで井深社長に迫った。

 対話の中で井深社長は「ソニーは米国の会社ではない。米国に強力な子会社を持った日本の会社である」と答え、「将来、ソニー本社の経営者、取締役に米国人が入ることは考えられない」と言い切っている。

 現在のソニーの経営と比較して、実に興味深い見解といえる。(敬称略)(ダイヤモンド編集部論説委員 深澤 献)

ソニーはなぜ
米国で成功したか

アベグレン ソニーは米国で成功しました。他の会社はパッとしません。どうしてでしょうか。また、ソニーも欧州ではまだ成功していませんが……。

『週刊ダイヤモンド』1969年7月28日号誌面コピー「週刊ダイヤモンド」1969年7月28日号より 拡大画像表示

井深  私どもは、米国での商売を頭からメイン・ビジネスだと考えてかかったことが一つ。従って、製品であれ、宣伝方法であれ、米国でどうしたらいいかということを第一に考えた。この間も、お前のところの商品は製品の説明に全部英語を使っていてけしからんと、小汀利得(おばま・としえ)さんに怒られたところなんです。

 もう一つは、商社では新しいものが開拓できない。自分の力でやらなければいけないと考えたことです。米国で何を売るべきか、販売方法は、宣伝方法は、人の使い方は……すべて私どもの盛田副社長が自分で米国に乗り込んでいって、最初から商売のタネを植え付けていった。

 その場合、ソニーという名前で売り込んでいったことも大きな要素だったと思います。自分の名前で売っていく行き方と、向こうの下請けになるというのとでは、考え方の質という点で根本的な違いがある。これに案外気づいていない人が多い。

 自分の名前を出して商売をしていくには、一つ一つ築き上げていかなければならない。最初は苦しい。向こうの下請けなら、何の努力もいらない。入りやすい。しかし、下請けの場合には、よそに安いものが出たから、そちらに切り替えると言われてもどうにもできない。最初苦しくても築き上げたものがあるかどうか。その違いが、ここに出てくると思います。

 私どものマーケティングによると、米国と欧州では、市場に根本的な違いがある。米国の方が、はるかに商売しやすい。

 ものの外観的な意匠一つとっても、欧州の場合、各国、各都市で感覚が全然違う。ドイツの各都市は独立国と考えてもいいくらいだ。この点、米国に対するデザインは、一都市で通用するものなら、大体全土に通用する。また、米国で通用するものは必ず日本でも通用する。

 同じ努力するなら米国の方が効率がいい。米国市場はまだまだ伸びる余地が大きい。私どもの人、資力、製品能力には限りがあるから、米国市場に全力を上げよう。欧州は、これから始まる問題だと考えているわけです。