パウエル議長
トランプ政権だけではなく超党派的な利下げ圧力を感じているであろうFRBのパウエル議長 Photo:AFP/AFLO

 米連邦準備制度理事会(FRB)が7月末の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げを決める可能性が高まっている。それまでの間に米国の経済指標がさほど悪化せずとも、FRBは景気悪化を未然に防ぐための「保険」として利下げすることになりそうだ。

 6月19日にFRBが公表したドットチャート(フェデラルファンド〈FF〉金利予想)では、17人中7人の幹部が今年末までに計0.5%の利下げがあるという予想を示した。ジェローム・パウエル議長もそこに入っているようだ。

 トランプ政権だけではなく民主党までもが「中国に安易な妥協はすべきではない」と叫んでいる環境下では、中国に弱みを見せずに済むように米経済を下支えすべきだとの超党派的プレッシャーをFRBは感じているだろう。

 当然7月の利下げは確定した「ダン・ディール」ではない。もし大阪で開かれた主要20ヵ国・地域首脳会議(G20サミット)での米中首脳会談や7月に出てくる経済データが非常にポジティブなものになれば、利下げは9月以降に先送りされるだろう。ただ、そのハードルは高そうだ。

 逆に、もし経済指標の悪化が7月末までに顕著となったら、FRBは「保険」の領域を超えて7月のFOMCで一挙に0.5%の利下げを決める可能性が出てくる。

 現在のFF金利は2.4%程度しかなく、過去の景気後退前に比べ利下げ余地は著しく小さい。普通ならば限られた「利下げカード」故に温存したがりそうだが、最近のFRB内の議論は逆だ。利下げ余地が小さいなら、それを最大限効果的に早めに使っていくべきだという見方が強くなっている。

 当面注目される経済指標は、6月28日の米個人消費支出(PCE)インフレ率、7月1日の米供給管理協会(ISM)製造業景況指数、7月5日の雇用統計である。特に雇用統計における非農業雇用者数前月比は市場で大きな材料になるだろう。

 5月分はわずか7.5万人増にとどまったが、雇用市場が失速し始めたのか否かを単月では判断できない。過去6年を振り返ると10万人を割った翌月は必ず大きくリバウンドしたからだ。もし6月分が20万人を超えたら、7月の利下げに対する市場の見方は割れてくるだろう。逆に再び10万人を割ったら、市場は7月の利下げ幅は0.5%か?と騒ぎ始めそうだ。

 要注意なのは、同指標の公表日は独立記念日(4日)と週末に挟まれた休みの谷間という点だ。市場参加者が少なく薄いマーケットになりやすい。同統計がサプライズを呼ぶ数値になると市場は激しく動くだろう(6年前はそのパターンで米長期金利が暴騰した)。

 FRBの7月利下げが濃厚になれば、円高進行を恐れる日本銀行は7月の金融政策決定会合でフォワードガイダンスの強化(超低金利維持の期間の延長)を決めるだろう。さらに10年金利の変動許容幅(現在0%±0.2%)を事実上拡大する可能性も出てきそうだ。だがマイナス金利の深掘りは深刻な副作用を金融業界にもたらすだけに、簡単には決断できない。

 もしFRBの利下げが「保険」的な0.25%×2回程度で終わるなら、円高は過度に進まず、日銀はマイナス金利の深掘りを回避できるだろう。だがFRBがゼロ金利および量的金融緩和の再開を視野に入れ始めたら、日銀は極めて悩ましい状況に直面する。FRBの利下げが「保険」の範囲内か否かは日銀にとっても重要となる。

(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)