今は中国、その前はアメリカ――世界のワインオークションを支えてきたのは、時の経済大国である。そして今、米中貿易戦争のあおりを受けて、中国人が支えてきたワインオークションに異変が起きている。(プレミアムワイン代表取締役 渡辺順子)
香港オークションで異変!
業界関係者困惑の声相次ぐ
5月下旬、香港で開催された有名オークション会社主催のワインオークションで「異変」は起きた。参加人数は普段と変わらず。しかし、肝心の価格のせり上がり方がいつもとは違って、明らかに勢いがなかったのだ。
「あれっ?」という戸惑いの声が会場のあちこちで漏れた。このところ、ワイン業界関係者が恐れていた米中貿易戦争の影響が、とうとう現実のものとなりつつあるのかもしれない。今、業界人たちは不安を抱え日々を送っている。
ワインオークションは、その時々の経済大国が支えてきた。1980年代はバブルに沸いた日本、1990年代からリーマンショックまではアメリカ、といった具合だ。そしてここ10年は、中国が“大黒柱”だったのである。
2008年、リーマンショックで、それまでワインオークションを支えてきたアメリカが失速。入札者が全く集まらなくなり、当時、クリスティーズで働いていた私は、出品者に最低落札価格を下げるよう、お願いに回る日々だった。それまでは落札率95%以上を誇っていたオークションハウスでさえも、この時は50%を切る始末。関係者は「もう先は長くないな」と、悲観一色だったのである。
そんなどん底の中、さっそうと登場したのが中国だった。きっかけは、リーマンショックと時を同じくして、香港がワインにかかる関税を40%からゼロに引き下げたこと。大手オークションハウス(ワインの場合はクリスティーズ、サザビーズ、ザッキーズ、アッカーの4社が有名である)はこぞって拠点を香港に開設し、景気拡大に沸いていた中国で大々的プロモーションを行った。