快楽とは、肉体的な気持ち良さのこと?

 普通の人が諦めるところをそんなふうに極端に考えることで一点突破しようとしたその執念と情熱には頭が下がるところだが、でも、なんか人間の幸福を単純に快楽という肉体的な反応に置き換えるって、ちょっと怖いような気もする。

「あの……」
 本来、授業中に質問するキャラではないのだが、功利主義のことを考えているうちにどうしても気になってしまい、つい手をあげてしまった。先生がどうぞのジェスチャーをしたので、僕は立ち上がり、ついさっき思いついた質問を口にする。

「えっと……、ベンサムの言う快楽とは、ようするに肉体的な気持ち良さのことなんですよね?」

「そうだね。ベンサムは快楽の種類として心理的なものもあげているが、しかし現代人の視点では、それらも結局は身体的な脳の快楽に還元できるだろうから、単純にそう解釈しても良いだろうね」

「そうすると……、快楽―肉体的な気持ち良さが幸福なのだとしたら、たとえば、麻薬とかで快楽を得ることも幸福ということになるのでしょうか?」

「ほう。正義くん、それはとてもよい質問だね」
 先生は、毛がまったくない頭を両手でかきあげるような仕草をしながら、なぜか感慨深そうな顔をした。

 次回記事『副作用のない麻薬なら、どんどん使うべきか?』に続く。